談話 財政制度等審議会建議 「歴史的転機における財政」について  PDF

 2023年5月29日に財政制度等審議会が示した建議「歴史的転機における財政」は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって疲弊した医療・社会保障領域におけるサービスの担い手と患者・市民をさらに痛めつけるよう政府に進言する重大な内容である。
 建議は「基本認識」において、地球環境問題、国際平和秩序の危機とグローバルな経済・金融環境の変化を引き、日本が経済成長力の低下や人口減少・少子高齢化等の危機に陥っていると危惧。「危機に際して機動的に財政を運営するためには、平時にこそ財政を健全化することが不可欠であり、コロナ対策により一層低下した財政余力の回復が急務」とした。その上で、山積する社会課題の解決に向けては「規制改革などの他の施策と相まって」「民間の活力を引き出すことが重要」「産業構造の転換と労働市場の流動化を図ること等により生産性を高める」とし、「民間主導の経済成長に向けた環境整備を行うことが、政府の役割である」と断じている。さらに5年間で43兆円もの「防衛力整備」は当然視し、その実施のための経済・金融・財政の基盤強化に不断に取り組むことが必要としている。
 以上のような「認識」が新たに示されたことは、少なくとも財務省は1990年代以降、固執し続けている新自由主義改革路線以外に、困難に直面し、閉塞した社会状況の打開策を何ら構想できない状態に陥っていることを表すものである。
 新自由主義改革は、巨大企業の活動を拘束するあらゆる規制を除去し、市場と競争が野放図に展開される社会・政治体制の構築を企むものである。日本は皆保険体制によって高い質の医療を人々が等しく保障されることを目指し、世界的な長寿を達成したにもかかわらず、改革によって雇用はじめ人々を守る社会制度が破壊され、医療・社会保障制度が後退し、子どもを産み育てる希望すら抱けない国になってしまった。
 建議の謳うGX・DXは、従来政策の誤りがもたらした社会・財政危機を今また新自由主義的政策で乗り越えようとする無理筋なものである。「少子化対策」の財源に社会保障歳出改革の徹底や新たな負担を求める自己矛盾に陥り、公的に保障してきたサービスを市場へ委ね、企業利益を増大させる以外、何ら方策を打ち出せない姿に怒りを禁じえない。コロナ禍が露呈させた公衆衛生・医療提供体制の脆弱性は、従来の政策の誤りと破綻を何よりも証明するものであるにもかかわらず、2024年の同時改定での報酬引き上げを否定し、相も変わらず地域医療構想の推進を説き、介護保険制度の解体的見直しを求め、果ては医療における自由開業を否定し「新規開業規制」の徹底を求めており、言語同断である。
 今日の状況を真に「歴史的転機」とするには、痛めつけられた人々の生活に寄り添い、雇用・経営を守り、医療・福祉を公的に保障する仕組みの再構築こそ必要である。このことを私たちは強く指摘し、建議に対する強い抗議の意思を表するものである。
2023年6月8日
京都府保険医協会
副理事長 渡邉 賢治

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