健康保険証廃止を含むマイナンバー制度関連法案が6月2日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。別人の情報がマイナ保険証に紐づけられるなど情報漏洩や誤登録のトラブルが相次いで発覚する中、その実態解明も行わないまま成立させることは、国民が安心して医療を受ける権利を著しく阻害するもので到底看過できるものではない。あらためて健康保険証の廃止について撤回を強く求める。
私たちは、健康保険証の廃止自体が国民皆保険制度における受療権の著しい後退であると批判してきた。つまり、保険証を廃止するとマイナンバーカードを保険証として使用することも、代わりとなる「資格確認書」の交付を受けるにも本人の申請が必要となる。これは、被保険者証を全被保険者へ無差別・無条件に各保険者を通じて交付してきた国の社会保障責務の大幅な後退である。また、国保等の短期被保険者証の廃止が盛り込まれていることも看過できないことである。1年以上の保険料滞納により機械的に特別療養費の支給(10割負担)に移行させないよう、市町村が支払えない事情の把握や相談などで短期被保険者証を発行することが一定の歯止めとなってきた。そうした自治体の裁量が制限され、保険料を払えないことが、ダイレクトに「医療にかかれない」ことにつながることになる。
全国保険医団体連合会の全国医療機関調査(5月31日発表分)では、マイナ保険証による資格確認のトラブルは6割以上とされ、資格情報が確認できずに窓口で医療費が全額負担となったケースも393件に上ると報告されている。すでに全国の医療現場で混乱が多発しており、実害が生じていることがうかがえる。このまま突き進めば、患者、医療機関ともにさらなる混乱と被害が拡大することになる。
国が保険証を廃止してまでマイナンバーカード普及を急ぐのは、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の名の下に、マイナンバーでは法律上できない、マイナンバーカードとマイナポータルサイトによる健康情報等機微な情報を含むさまざまな個人情報の収集、紐づけと、ビジネスにおける情報の利活用にある。医療DXは、大量の個人情報を収集・集積できるだけでなく、社会保障給付抑制への利活用や、国民を監視する社会システム構築へつなげることも可能になる。であればこそ、国民の機微な情報を守る体制構築と透明性の確保が不可欠である。国は「デジタル社会」のメリットしか語らないが、制度の根幹を揺るがす足元の危機を解消し、国民の不信払拭をこそ最優先することが大前提である。
2023年6月2日
京都府保険医協会
理事長 鈴木 卓
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