鈍考急考 41 原 昌平 (ジャーナリスト)難関資格の公務員優遇ルート  PDF

 法律、会計などの国家資格を取得すれば、いわゆる「士業」として独立開業できる。
 国家試験はいずれも難関だが、実は、隠れたルートがある。特に公務員は優遇されていて、長く勤めたというだけで、試験を受けずに資格を取れたりする。
 行政書士(筆者もその1人)は、許認可申請や権利義務に関する書類作成が主な仕事だ。試験科目は憲法、行政法、民法、会社法など。
 しかし国や自治体などでの行政事務の経験(補助的事務は除く)が高卒以上の場合で17年あれば、無試験で行政書士登録できる。警察や消防を含め、公務員を退職後に事務所を開く人も少なくない。
 士業間の特例もある。弁護士だけでなく、弁理士、公認会計士、税理士も無試験で行政書士になれる(これらの試験に行政法や民法はない)。
 司法書士は、不動産・法人の登記申請や裁判所・検察庁・法務局へ提出する書類の作成などを行う。裁判所の事務官・書記官、検察事務官、法務省の事務官として通算10年以上勤めれば、試験なしで登録できる。
 弁理士は特許、意匠、商標など知的財産に関する手続きを扱う。特許庁の審理官や審判官を7年以上務めれば、無試験で弁理士になれる。
 社会保険労務士は、労働関係・社会保険の事務代行や年金請求が主な業務。国家試験は労働基準法、労災保険、雇用保険、健康保険、国民年金、厚生年金など8科目にまたがり、細かなことまで出題されるが、試験科目の一部免除制度がある。
 国、自治体、日本年金機構、協会けんぽ、健保組合などで10年以上、該当する分野の業務をすれば、その科目が免除される。15年以上勤務なら免除が広がり、最大4科目まで免除。社労士事務所で15年以上働いた人も講習を受ければ一部免除される。
 そして税理士。国家試験では税法3科目と会計学2科目に合格する必要がある(科目ごとの合格は一生有効で、何年かけてそろえてもよい)。
 ただし税務署での賦課業務や税法の立案に10年以上従事すれば、税法の科目が免除される。23年以上なら全科目免除。このため国税OBの税理士が結構いる。
 また弁護士は、税法や財務会計を勉強しなくても、税理士として登録できる。
 弁護士にも特例ルートが残っている。法学部の教授・准教授としての在職期間が2008年3月までに5年以上あれば、今でも司法試験、司法修習なしで弁護士になれる。
 テレビにコメンテーターとして登場する大学教授には、このルートで弁護士資格を得た人もいる(だから専門以外の法律には詳しくない)。
 それぞれの資格制度には歴史的ないきさつがあるのだろうが、実務経験を通じて専門知識を本当に蓄えているなら、難しい試験でも合格できるはずではないか、なぜ免除するのか、公平と言えるのか、という疑問が浮かぶ。
 既得権益の打破を唱える政党がある。それが感情的な公務員いじめではなく本気なら、税務署を恐れる事情もないのなら、こういうテーマにも踏み込んだらどうか。

ページの先頭へ