鈍考急考 40  PDF

バクチ事業に賭けるなら個人保証しろ
原 昌平(ジャーナリスト)

 閑古鳥が鳴いたらどうするのか。大丈夫だと言うなら知事、市長、維新幹部、賛成した議員らは、この事業で負けた時に備え、大阪市に個人で連帯保証したらどうか。
 カジノを中心にした統合型リゾート(IR)を大阪市の人工島・夢洲に設ける計画を政府が認定した。
 賭博は刑法で処罰対象の犯罪。なのに民間会社の賭博場を初めて認めるのだから、ギャンブル依存、闇金業者、資金洗浄などが心配される。
 それ以上に筆者が懸念するのは、そもそも施設の経営が成り立つのか、失敗した時に自治体に巨額の財政負担が生じないかという点だ。
 計画が見込む来場者数は年間2000万人。うち外国からは3割で、残り7割は国内から。国内客は入場料6000円を取り、週3回、月10回以内に制限するという。
 近くにあるユニバーサルスタジオの来場者は、最も多かった時期で年間1400万人台。それを大幅に上回る集客がどうして可能なのか。
 カジノはマカオ、シンガポール、韓国などにあるし、主流はオンラインに移りつつある。日本独自でない施設に外国客がわざわざ来るのか。
 国際会議場、ホテル、商業施設もつくるという。大阪の人は好奇心旺盛で最初は見に行くだろうが、夢洲は遠い。地下鉄を延ばしても梅田・難波から30分はかかる。高速道路も直結はしていない。
 音と光で演出するパチンコ店も、コロナ禍でかなりつぶれた。身近なパチンコに通う客が夢洲まで行くか、カジノの気取った雰囲気に合うか。
 IRの経営が失敗した時、そのツケを誰が負担するかは事業者と大阪市の協定や契約による。すべての内容の公開・精査が欠かせない。
 ポイントは、地盤沈下をはじめとする土地の問題と、交通アクセスの整備だろう。
 すでに大阪市は、夢洲の土壌汚染、液状化、地中障害物などの対策費として約790億円の負担を決めた。
 対策をしても後で問題が生じたら、事業者は、土地に欠陥がある、交通網が構想と違うなどと、契約不適合責任、債務不履行を理由に賠償や負担を求めるのではないか。
 大阪市はバブル期の計画で南港のATC、WTC、さらに土地信託や第三セクターを含めて超大型ビルを次々に建てた。軒並み経営破綻して巨額の財政負担をもたらした。
 維新の会をつくった橋下徹氏は、後付けながら巨大開発の失敗への批判を売りにしていた。なのにまたもや、ベイエリアの巨大開発と万博などのイベント。同じことを繰り返しているのではないか。
 カジノ構想が浮上した2009年10月、知事だった橋下氏は講演でこう発言した。
 「こんな猥雑な街、いやらしい街はない。カジノを持って来て、どんどんバクチ打ちを集めたらいい。風俗街やホテル街、全部引き受ける」
 金もうけと風俗、エンタメにしか興味がないのだろう。大阪に対する低俗な偏見。
 文化、芸術、学術、景観、環境、利便、暮らしやすさ。それらが都市の魅力を生み、創造性のある人が集まることで産業の素地にもなる。京都の人は、よくわかるはずだ。

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