後期高齢者の負担増で現役世代と公費負担を縮減  PDF

全世代型健保法案が国会提出

 「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」(以下、法案)が2月10日に閣議決定、国会提出され、3月16日に審議入りした。後期高齢者医療制度の被保険者に狙いを定めた「負担増」をもくろみ、現役世代の負担とともに国の負担も軽減するなど、現政権の医療・社会保障政策の地金を露呈している。

子育て支援拡充するも
後期高齢者は負担増

 法案では出産育児一時金の支給額の引き上げが提案された。各医療保険が交付する補助金を現行42万円から2023年4月より全国一律で50万円に引き上げる。少子化克服を目的とするが注目すべきは、その「財源」である。「全世代で支え合う」として、新たに後期高齢者医療制度からの「支援」(実施主体である広域連合ごとに被保険者数を按分)を導入する。その財政影響について国は、協会けんぽや国保などは負担減少の一方、後期高齢者医療は24年度(満年度ベース)130億円の負担増としており、保険料の引き上げにもつながる。

「公平に支え合うため」
高齢者負担率の見直し

 さらに法案は「後期高齢者負担率の見直し」を盛り込んでいる。現在、後期高齢者負担率(保険財政のうち高齢者自身の保険料で賄う割合)は、「公費5:現役世代からの支援金4:被保険者1」だが、24年度より「現役世代の負担上昇を抑制するため」「介護保険を参考に」負担率の設定方法を見直す。
 介護保険では3年に一度、第1号・第2号被保険者の人口比に応じて負担割合を見直しており、現行では「公費5:第2号約3:第1号約2」である。財政影響について国は、協会けんぽや国保などは負担減少となるのに対し、後期高齢者医療は25年度(満年度ベース)820億円の負担増としている。国は、制度改定によって約6割(年金収入約153万円相当以下)の人が負担増とならないようにし、それ以外の層も24年度は緩和措置を図る。
 以上に共通するのは高齢者(75歳以上)の負担増により、現役世代の負担を減らす政策手法である。だが、負担が減少するのは現役世代のみではない。後期高齢者負担率の見直しで、国負担も公費も50億円削減される。
 全世代型社会保障改革は高齢者が制度を「支える側」となるよう求めⅰ、いわば高齢者を高齢者として扱わない。露骨な高齢者狙い撃ち政策が、結果として医療保障に対する国の財政責任の後退につながりかねないものである。また、こうした政策が社会の空気を変質させ、高齢者排除の機運を醸成する危惧さえあるⅱ。一方、法案は都道府県により強力な医療費適正化策の推進を図り、その具体策の一つとして「かかりつけ医機能報告制度」の創設を盛り込んでいる。
(「かかりつけ医」に関する内容・脚注は3面)

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