医師が選んだ 医事紛争事例 179  PDF

患者移動は、状況に応じた対応を
(80歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は、本件医療機関の介護療養病床に入院中であった。パーキンソン病、慢性心不全、偽痛風後無水晶体症、変形性膝関節症の既往があり、要介護度5だった。患者が排尿便の介護を求めたため介護士は訪室し、ポータブルトイレをベッドから少し離れた所に置いた。介護士は、患者の片足をトイレ側に開き、患者をポータブルトイレに移動させるべく患者を抱え上げて反転させようとしたところ、患者をベッドの下に転落させた。事故直後、医師が診察をした結果、左手背、左肘擦過傷、裂症を認めたため処置を施した。また左大腿骨骨折も疑い、他医療機関に救急車で搬送したところ、左大腿骨骨折が確認されたため入院となった。患者が入院していた病棟では、事故当時、患者22人に対して看護師1人と介護士1人で対応していた。
 患者側は、他医療機関の入院費用などを請求してきた。
 医療機関側としては、患者は立ち上がれば誘導しながらもポータブルトイレへの移動が可能であり、介護士は患者の身体的状況を認識していたにもかかわらず、抱き上げて無理に反転させようとして体のバランスを崩した結果、転落させたこと、またトイレをベッドの間近に設置しなかったことは過誤であると認めた。なお、介護士によると、事故当日の患者の状態は移動する際にふらつきが大きく、身体を反転させにくかったとのことであった。
 紛争発生から解決まで約1年3カ月間要した。
〈問題点〉
 介護士は1人で患者を抱きかかえていたが、これは通常の患者移動の手続きと異なっており、一部過誤と判断された。また、ポータブルトイレが通常より遠い位置に設置していたことを医療機関側は過誤と評価したようだが、ベッドの間近でなくとも傍にはあり、その判断は疑問である。
〈結果〉
 医療機関側は全面的ではなく一部過誤を認め、賠償金を支払い示談した。

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