国の「かかりつけ医」骨格案で談話  PDF

国が目標に向け、着実に
段階を踏んでいることを注視
談話  2022年12月20日 理事長 鈴木 卓

 11月28日、厚生労働省第93回社会保障審議会医療部会が「かかりつけ医機能が発揮される制度整備(骨格案)」を示した。これは「国民・患者はそのニーズに応じてかかりつけ医機能を有する医療機関を選択して利用」「医療機関は地域のニーズや他の医療機関との役割分担・連携を踏まえつつ、自らが担うかかりつけ医機能の内容を強化」する新たな仕組みを構築するものとされている。なお、国の全世代型社会保障構築会議は12月16日の報告書に同案を盛り込んだ。
 骨格案は二つの柱で構成されている。一つめが「かかりつけ医機能報告制度」であり、医療機関が「持病(慢性疾患)の継続的な医学管理、日常的によくある疾患への幅広い対応、入退院時の支援、休日・夜間の対応、在宅医療、介護サービス等の連携」に対応する機能を都道府県に報告。都道府県は報告に基づき「地域の協議の場」で「不足する機能を強化する具体的方策を検討・公表」する。
 二つめが「医療機能情報提供制度」の拡充であり、「かかりつけ医機能」の定義を法定化(身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う機能)し、医療機能情報提供制度を拡充し、国民・患者の医療機関の適切な選択に資する情報をわかりやすく提供できるようにする。
 ここに至る経緯を振り返れば、財務省・財政制度等審議会の建議(2022年5月25日)がフリーアクセス制限の狙いを露わに「かかりつけ医制度法制化」を提言、骨太方針2022が「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」と明記したことが直接の契機である。その後、当協会も含む各医療団体は「機能強化は必要だが制度化は不要」と声を上げ、11月には日本医師会・日本病院会が強制性を排したかかりつけ医機能の強化策を提言。こうした経緯を踏まえ「全世代型社会保障構築会議」が11月24日、今回の骨格案につながる「論点まとめ」を行った。
 以上の経緯から医療界の声が財務省の狙う「登録型」の制度創設をいったん頓挫させたと評価することは可能かもしれない。だが財政制度等審議会建議を再読すると「地域の医師、医療機関等と協力している、休日や夜間も患者に対応できる体制を構築している、在宅医療を推進しているといったかかりつけ医機能の要件を法制上明確化」(建議38ページ「『C』かかりつけ医機能が発揮される制度整備」)するよう求めた財務省の意図は骨格案によってある程度達成されたと考えるべきではないだろうか。建議は次のように述べている。「これらの機能を備えた医療機関をかかりつけ医として認定するなどの制度を設けること」、「利用希望の者による事前登録・医療情報登録を促す仕組みを導入していくことを、段階を踏んで検討していくべき」(同)。
 すなわち、今回の骨格案は性急な患者登録型のかかりつけ医制度導入に至らなかったということに過ぎず、国は目標に向け、着実に「段階を踏んでいる」のである。
 医療制度構造改革として推進されてきた医療提供体制改革は「医療費適正化」のため、国が全国一律に示した「需要推計」に応じた供給量へ、病床数・医師数を収斂していくこと(平準化)を目指すものである。そのために導入されてきたのが地域医療構想であり医師偏在指標である。そして22年4月に施行された外来機能報告制度もその一環に他ならない。決して見誤ってならないのは、かかりつけ医制度はそれら一連の改革と無関係に降ってわいたものではないという点である。
 外来機能報告制度は地域の外来機能を大きく「紹介受診重点医療機関」と「かかりつけ医機能を担う医療機関」に二分化するもので、それ自体かかりつけ医制度へつながる危険性を予見させるものである。そこへ骨格案のいう「かかりつけ医機能報告制度」が導入されれば「紹介受診重点医療機関」と「かかりつけ医機能を担う医療機関」の違いは一層明確となる。このことが近い将来、地域の「需要推計」に応じた開業医定数の設定や「開業規制」等の規制的手法導入への足場となる可能性は高い。さらに法制化された「定義」や都道府県への報告の有無を用いた「受診時定額負担」(2011年に提案)の導入が再燃する危険性もある。その結果、開業規制・フリーアクセス制限が強められ、「登録型」のかかりつけ医制度創設につながっていく危険も十分に予想できる。つまり、「骨格案」は財務省の求める「かかりつけ医制度」実現に向けた基盤整備になり得るのである。
 かかりつけ医機能をめぐる議論は「国民に良質で安心できる医療を提供」するためのものでなければならない。新型コロナウイルス感染症がもたらした人々の困難を逆手に取り、医療費適正化路線をさらに突き進もうとする国の姿勢は決して許されるものではない。
 今回のかかりつけ医制度をめぐる議論の過程においては、日本医師会や日本病院会が11月初旬に示したように、医療機能情報公表制度におけるかかりつけ医機能の報告事項を精査し、他の医療機関との連携、全人的医療、総合的な医学管理といった地域で求められる機能を医療側から明らかにしていく積極的な流れも生まれている。さらに医学教育におけるプライマリケアの涵養やかかりつけ医機能を支える十分な診療報酬等、むしろこれを機に私たち自身が深めるべき政策課題は多い。私たちは引き続き、公的医療保険で必要な医療を必要なだけ、人々に提供する仕組みを守り、拡充される立場で今後の施策の展開を注視し、必要な発言を続けていく所存である。

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