医療連携が声高に叫ばれるようになってかなりの時が過ぎた。病診、病病、診診、医療介護、多職種と連携のつく単語が溢れている。
そんな中、連携の主人公は誰なのか?と問い直す事案に遭遇した。同じ自治会のご近所さん、50代の中小企業経営者が「胃の不快」を主訴に受診。腹部触診で胸騒ぎを感じ、2日後に内視鏡を施行。進行胃がんを認め、地域の基幹病院に電話で依頼して紹介転医。精査の結果は腹膜播種、肝転移、肺のがん性リンパ管症を伴うステージⅣ。化学療法が開始され、隣人としてたまに顔を合わせてもいつもと変わらない態度で、会社にも通っている様子。
3カ月後、最近車が動いていないようだなと思っていたら、病院の連携室から電話が入った。多発脳転移が判明し急速に昏睡状態となったが、家族が自宅での看取りを希望。在宅医療対応の可否を問うものであった。即座に受諾。その日のうちに退院の方針となったが、6L/分の酸素吸入中とのこと。取引業者に依頼し、酸素濃縮機の自宅設置と移動中の酸素ボンベを病院に届けてもらう手配を取った。
ところがである。帰宅は介護タクシーを使い、同乗は家族のみ、道中急変死亡もあり得るとの通告。すぐに「私がそちらまで迎えに行きます」の言葉が口をついた。自院の患者輸送車で、自院の看護師と搬送、無事帰宅を果たした。3日後の朝、深昏睡から奇跡的に意識を回復。詰めかけた多くの仲間と会話し、アイスクリームを口にしたが、翌日の夜高熱を発し意識レベル低下、2日後帰らぬ人に。
在宅力を再認識させられた出来事であった。在宅医療の推進が叫ばれ、多死時代における病院外死増加が必須といわれる。前述のようなケースも増えてこよう。在宅から入院の際に主治医が同行すれば、往診料あるいは訪問診療料が(滞在)時間加算を含めて算定できる。対して、今回のように病院を退院し在宅に移行する際には、病院医師や看護師が同行しても医療保険で算定できる項目はない。状態が不安定であったり、各種医療機器が装着された状態の方も少なからずいるはずで、移動中のトラブルは懸念すべきものだ。本人の安全と家族の安心をサポートし、病院外看取りを後押しする診療報酬の新設を強く求めたい。
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