一見「低姿勢」岸田内閣の問答無用体質を糺す オンライン資格確認義務化は撤回を 理事長談話理事長 鈴木 卓  PDF

 8月3日の中医協総会に診療報酬等一部改正の厚労大臣諮問書が出された。4月より新診療報酬が発効した直後に異例な「朝令暮改指示」である。諮問書には「答申に当たっては『骨太方針2022』(略称)に基づき行うよう求める(要約)」などとある。「骨太方針2022」には「オンライン資格確認について、保険医療機関・薬局に、2023年4月から導入を原則として義務付ける」とあり、8月10日の中医協総会でその通りの「答申」が出された。中医協では診療側委員は療養担当規則改正に賛成を表明したものの、義務化に対応できないことが即違反、保険医登録取消しとなることに懸念が示され、「付帯意見書」を付けることで了承となったもようである(議事録未発表)。
 経緯を考察すると、マイナンバーカードはポイントを付けても思うように普及が進まない。一方、オンライン資格確認導入も足踏み状態にある。この両者の苦境状況を打開する奇策が、マイナンバーカードによる診療受付の“義務化”と保険証廃止であったのだろう。
 初めてオンライン資格確認システム導入原則義務化が公式に示されたは、22年5月25日の第151回社保審・医療保険部会である。この場で、日医委員は「突然の義務化の話が出て、びっくり。導入しないと(医業を)止めなさいと言うことか。反対する」と発言(引用者要約)している。この直後の5月31日、第7回経済財政諮問会議の「骨太方針2022」原案に“義務化”の文言が記載され、1週間後の第8回同会議で原案通り承認、即日閣議決定された。社保審での議論など一顧だにされなかったことになる。そしてこの原案そのままの内容が中医協総会の答申となった。すなわち、極めて重大な案件がほとんど議論もなしに拙速、強引に決められたことは明白である。
 療養担当規則改正により、オンライン資格確認システムを導入しない医療機関は、紙レセプト医療機関を除き“療担規則違反”による罰則が科せられ(紙への逆戻りは許されない)、医療機関は保険医登録取消しで事実上の診療・医業廃止につながり兼ねない。改正理由は、「よりよい医療を受けられる環境をつくるため」とのことであるが、具体的メリットは「重複投薬解消」程度しか説明されてない。これではあまりに軽重不釣合いである。しかもこの理由は4月改定時の初再診・新加算創設の主旨と何ら変わらない。オンライン資格確認導入医療機関に加算が付く点は不変で、マイナンバーカード不使用、または個人情報提供拒否患者に、より高い初診料が課せられるが(ここが新旧で逆転)、改定前よりは低額設定として患者側からの反発をかわす狙いである。
 義務化、保険証廃止で危惧されることの一つは、診療所の受付がオンラインに限定されると、サイバー攻撃やシステム障害等でたちまち大混乱に陥ることである。代替の道=保険証の併用等は絶対に残しておくべきリスクヘッジでもある。まずは、原則義務化を撤回すべきである。
 就任に際し“聞く耳と丁寧な説明”という低姿勢で滑り出した岸田首相であったが、今に至って“聞いただけ”で受け止めないとか、いきなり閣議決定で決めるとか、説明不十分で強引な手法が目立ってきた。安倍氏の国葬、原子力発電依存回帰、新型コロナ感染者の療養期間短縮、等々それぞれ国民の疑問や専門家の異論が残っている問題に対して独断でどんどん進めている。このような乱暴な手法は糺されるべきである。“聞く耳と丁寧な説明”とは多様な国民の意見を尊重し、国会や委員会・審議会で議論を興した上で政策をまとめ、説明し、実行していく姿勢のことである。
 今後の国会では、感染症法の改正(感染症対応不十分医療機関への罰則等)やかかりつけ医制度法制化も課題に上がっている。これらの審議やその他重要課題を巡っても、岸田政権は昨今の問答無用体質を自省し、初心の姿勢で国事に臨むことを強く求めるものである。(関連2面)

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