保険証交付の継続求め国に要請
6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」は、「保険医療機関・薬局に、オンライン資格確認の導入を2023年4月から原則として義務付ける」、さらに「24年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、保険証の原則廃止を目指す」と打ち出した。
それに先立つ5月25日の社会保障審議会医療保険部会で、厚生労働省はオンライン資格確認の原則義務化に向けて、療養担当規則の改正を図る考えを示したと報じられている。
これを受け、協会はオンライン資格確認システム導入の義務化に反対し、撤回を求めるとともに別表の項目を要請した。
要請書は、岸田内閣総理大臣、鈴木財務大臣、後藤厚生労働大臣をはじめ、関係各所に7月26日付で届けた。
システム押し付けで現場に広がる戸惑い
5月25日の社保審医療保険部会では、厚生労働省の提案を聞いた日本医師会の松原副会長(当時)からの「(義務化に対応できない場合は)保険医療機関をやめろということか。やり方が拙速すぎる」との発言はまさにその通りである。
省令改正でレセプトのオンライン請求が07年4月10日に義務化され、その後、電子媒体による請求、紙による請求も認められるようになるまでの間に、ベテラン保険医が制度改変についていけないと閉院した。このことから、今回のオンライン資格確認の義務化は、医療提供体制の縮小さえ狙っているかのように見える。
また、オンライン資格確認システムは、23年3月末を締切に、国に補助を申し出た場合、顔認証機能付カードリーダーは病院3台、診療所1台まで無償提供。その他システム導入費用にも補助が出される。しかし、導入後のランニングコストや保守終了期の継続費用、機種の買い替え費用などは含まれていない。
マイナンバーカード普及の真の狙い
マイナンバーカードの交付割合は全国で45.3%だが、オンライン資格確認等システムを利用した資格確認の内訳を見ると、保険証による確認が85.6%とほとんどで、マイナンバーカードによる資格確認は0.5%に過ぎない(5月25日厚労省資料より。22年4月分実績)。この数字は、マイナンバーカードを保険証として利用したい国民が極めて少ないことを意味しているのではないか。
政府はオンライン資格確認システムを基盤に収集した医療のビッグデータを民間企業に開放し、IT企業の育成や「経済成長」に結びつけようとしている。マイナポータルを通じて個人で健康管理を行うよう行動変容を図り医療費の抑制を狙う、マイナポータルに関するツールの開発で企業に財政支出を行う、そしてマイナポータルで収集した個人情報を企業で活用する―など、さまざまな思惑をもって個人情報を大規模に集める手段が、マイナンバーで紐付けできる制度の拡大とマイナンバーカードの普及なのである。
従来通りの保険証の交付で十分
オンライン資格確認の最大のメリットはリアルタイムに近い資格確認だが、保険者が中間サーバーに登録した患者情報に、いまだに入力誤りが続いている。
一方、21年10月から支払側で資格喪失後のレセプト振替が行われており、資格過誤は減りつつある。保険者が責任を持って保険証を管理することが前提だが、保険医療機関側にとってオンライン資格確認システム導入のメリットは些少であると言わざるを得ない。
以上の理由から、協会はオンライン資格確認システム導入義務化と保険証廃止の方針に対し強く抗議し、撤回を求め、関係各所にも要請している。
(表)