協会は5月12日、熊本大学病院の医療の質・安全管理部部長、教授、ゼネラルリスクマネージャー、医療安全管理責任者の近本亮氏を講師に迎え、「医療事故に関わった職員のメンタルケアのあり方」をテーマに医療安全講習会をウェブで開催した。本講習会は、全国の保険医協会・医会会員医療機関からも参加を募り、266人が参加した。
冒頭、近本氏は全ての医療者は患者の健康のために精一杯治療に当たっているが、医療は不確実であり人間が実施する以上、一定の頻度で医療事故は起こってしまう。そのような時、事故を起こした職員は後悔や自責の念から心に傷を負い、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症することもあるため、医療安全管理者は患者の治療と再発防止に注力する一方で、職員のメンタルケアも並行して実施することが重要であると述べた。
次に、メンタルヘルス不調を来した職員に対するケアについて解説。管理職による職場環境等の改善や個別の指導・相談を行うラインケアが要であり、管理職は、部下の表情や様子などに何らかのサインを見つけた際には声をかけ、本人の訴えが職場内で改善できることであれば検討し、場合によっては職場内外部の専門家へ相談や受診を促す必要があるとした。また他にも、職員から話を聴く際のポイントについて説明した。
さらに近本氏は、医療安全管理者として実際に経験した事例を紹介した。その中で、看護師が患者を転倒させたことを契機に患者に関わることへの怖さが払拭できず、退職希望を申し出たケースでは、看護師長が当該看護師の話に傾聴・共感の姿勢で対応し、1週間程の休暇を取らせることにした。また、休暇中は実家で家族と過ごすように勧め、休暇明けからは負担になる仕事を減らすなどの対応を行うと、当該看護師は徐々に仕事の自信を取り戻し退職希望を撤回するに至った。近本氏は、管理職である看護師長の粘り強いラインケアと、周りの職員が事故前と変わらない距離感で当該看護師と接していたことも大きく影響したと述べた。
講演後の質疑応答では、紹介された事例の詳細や職員へのラインケアの方法などについて質問が寄せられた。近本氏は、中小規模の医療機関では医療安全の業務を職員一人で行い苦労が多いため、院長などが医療安全管理者をきちんと評価し労うことが重要であると述べた。
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