私のすすめるBOOK 宇田憲司(宇治久世)  PDF

波の如くうち寄せくだける
人の世に滋味で味わい深い詩本

 本書は、我が母校は京都府立医科大学の学友会会報22年5月31日「青蓮会報」第192号のある頁に、詩人の外村文象氏が絶賛して3月13日付で紹介・購読推挙された現代詩本の一冊である。私は会報の編集を担当した一員として編集後記でも本書について少し触れたので、青蓮会へと謹呈されたその1冊を借用して講読した。
 本書は、平易な言葉でとても読みやすく、表現は難しくない。しかもその言葉は事物の本質を捉えて的確で状況は静かで詩情に満ちあふれている。さっと目を通すだけならば、心地よく直ぐに読めてしまう。実は、丁度その同じ頃、岩波文庫の『対訳 キーツ詩集―イギリス詩人選(10)―宮崎雄行編』の名訳を右頁に一行ずつ読み見たり、左頁の原文を見直したりして苦労していたので、本作品のきれいな日本語だけでの詩本に接してほっとでき、とてもよかった。
 ちなみに、「狂句集」冒頭は1975年11月作者41歳時の「木枯らしに倒れしバラの花あかし」から最近21年10月の作者87歳で米寿前の一群の雑詠集7詩までの計296詩が禅問答のような語感にあふれている。「おじいちゃん/生きてるか?」と孫娘の気遣いを受けながらも、「人生」には「働いている/大きなものが…/目には見えない/大きなものが」働いているとする。しかし、「母への手紙」では実人生を振り返り、「たいした者にもなれず/たいしたこともできず/申し訳ありません」のであるが、「それで上出来上出来」との母の返事に「『生きる』というのは/もっともっと地味な/単調なくり返しなんですね」とある種の諦観が生じていて、悟りにも向かっているのである。
 キーツ詩集と比較する読解力はなく、それについては何も言えそうにないが、どちらかと言えば、同様に“NegativeCapability”の状況を彷彿とさせているようにも感じられ読んでいて人生への爽やかな思いが残った。
 どの年代の方にも感動が生じましょうが、特に、老齢期を迎え、自分を振り返っておられる方々には、是非ご購読をお薦めします。

『門林岩雄詩集米寿の朝』
門林岩雄著
2022年2月20日
(株)竹林館発行
1,100円(税込)

ページの先頭へ