医師が選んだ医事紛争事例 162  PDF

点滴液漏れで左前腕・手背皮膚潰瘍

(乳幼児男の子)
〈事故の概要と経過〉
 患者は急性肺炎のため本件医療機関に入院した。入院から2日後には、輸液ポンプを利用して、ハルトマンG3R500mlを20ml/hで持続的に投与した。同日、抗生剤(スルバシリンR400mg・生食4ml)を側管より静脈内注射して抵抗もなく、刺入2時間後に刺入部の状態に問題ないことを助産師が確認していた。
 ところが、翌日の朝に滴下不良が認められたので、刺入部を確認したところ、左手背から肩関節までの腫脹を認めたので抜針した。原因は点滴液の血管外漏出と考えられた。助産師は2時間ごとに実施すべき刺入部の確認を怠っていた。
 その後、前腕から手背にかけ、皮膚・皮下に血行障害が生じて変色し、一部皮膚潰瘍が生じて肉芽が生じ痣様の皮膚変化が遺残した。患者側は、傷跡を完全に治癒することとともに調停を申し立て、付き添いのため生じた通院時の交通費や仕事を休んだことへの補償等を請求した。医療機関側は、事故の要因として以下の点で、過誤があったことを認めた。
 1助産師は、輸液ポンプのアラームが鳴らなかったのは血管外漏出していないからと誤解していた。2助産師は、静脈内注射の際に抵抗がなかったことから、血管外漏出はないはずと誤認していた。3刺入部の観察は、チェックリスト上は2時間ごとに行うべきであったにもかかわらず、観察を怠っていた。なお、助産師は2時間ごとに観察しなければならないことを知っていたことから、職務怠慢とも評価された。
 なお、患者は左手首に痣様の皮膚変化を残していたが、時間の経過とともにその変色が薄れ、後遺障害を認定するほどではないと判断された。
 紛争発生から解決まで約2年3カ月間要した。
〈問題点〉
 医療機関側の主張・説明の通り、助産師に対する教育と助産師自身の怠慢や医療機器に対する認識不足が重なって発生した事故であり、医療過誤があったと判断せざるを得ない。なお、患者は当時1歳で、皮膚病変の回復を診るのに時間を要したことから、早期の解決は見込めなかった。
 患者の両親は感染症を極度に心配して、入院治療の必要性がなくなったにもかかわらず、入院の継続を求め、さらに、将来実施するか否か不明の形成手術費用や、過剰に両親の休業損害等を請求するなどの不当な要求が目立つようになった。よって医療機関側は過誤を認めていたが、その対処に弁護士を介さざるを得なくなった経緯があった。
〈結果〉
 医療機関側はすでに過誤を認めていたので、調停において調停委員の和解勧告に従い、和解金を支払い示談した。

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