難病等の児童の情報提供が評価へ
小児科 東道 伸二郎
少子高齢化が現実味を帯びてくる以前から、日本小児科医会は乳幼児のワクチンや健診、子どもの心の問題等に関する医師の診療行為を保険診療で請求できるよう要望してきた。多くは重要な医療行為であるが、時間と労力を要する割に保険診療として請求できないものもがほとんどで、看護師や他のスタッフに煙たがられながら続けてきた。この状況が改善し始めたのは、2020年度の改定「小児かかりつけ診療料」と「医療的ケア児が通う義務教育学校の学校医等への情報提供料」の算定である。
小児かかりつけ診療料の算定に当たっては、以下のア~オの指導等を行うと記載されている。
ア.急性疾患を発症した際の対応の仕方や、アトピー性皮膚炎、喘息その他乳幼児期に頻繁にみられる慢性疾患の管理等について、かかりつけ医として療養上必要な指導および診療を行うこと。イ.他の保険医療機関と連携の上、患者が受診している医療機関を全て把握するとともに、必要に応じて専門的な医療を要する際の紹介等を行うこと。ウ.患者について、健康診査の受診状況および受診結果を把握するとともに、発達段階に応じた助言・指導を行い、保護者からの健康相談に応じること。エ.患者について、予防接種の実施状況を把握するとともに、予防接種の有効性・安全性に関する指導やスケジュール管理等に関する指導を行うこと。オ.当該診療料を算定する患者からの電話等による緊急の相談等に対しては、原則として当該保険医療機関において、常時対応を行うこと。
アは別として、イ、ウ、エは診断と治療を中心にしている従来の保険医療とは異なる。これらは日本小児科医会が主張してきた小児のワクチンやその他の保健指導も医療保険適応となることと、医療的ケア児においては連携先も医療機関ではなく学校にも情報提供料が請求できるようになったことが示された。
22年の改定では、小児の夜間・休日診療所を運営している京都府医師会の会員が開設する普通の小児医療機関であれば、普通に取得可能な「時間外対応加算3」を申請したのち「小児かかりつけ医診療料」を申請すればよいことになる。結果として「時間外対応加算3」を申請しない医療機関でも、同様の診療内容で「小児科外来診療料」や初再診料が算定できることが示されたと考えられる。イの項目は医療的ケア児のみならず、難病・アナフィラキシー既往・食物アレルギーのある児童、生徒に拡大され、対象も文字通り学校、保育所、児童相談所等に拡大された。新型コロナ感染症の流行期と出生数の減少で苦境に立った小児科医側から見れば、今回の改定でこれまでに無料でやってきた仕事の一部が保険診療で認められたとも考えられ評価できる内容である。
今回の改定で患児の受ける恩恵は大きいが、財政難の京都市では3歳以上15歳未満の子どもの医療費補助が少なく(自己負担、月1500円以上で公費負担)、患児家族の負担増につながるため、京都市では同時に小児の医療費の公費補助を増やす必要があると思われる。
不妊治療が保険収載されたものの制限も
産婦人科 井上 卓也
今回の診療報酬改定で産婦人科領域における最も大きな改定は、いうまでもなく生殖補助医療(いわゆる体外受精・顕微授精)を含む不妊治療の保険収載であろう。不妊治療の保険適応化は2020年5月に閣議決定された「少子化社会対策大綱」の中で謳われたものであるが、その後菅政権が発足すると、その目玉政策として実現が急がれ22年度改定での保険収載となった。
体外受精は、83年に本邦で第一例の児が誕生して以降急速に広まっていった技術である。19年には全出生数の中で16人に1人は体外受精による児となっており、体外受精は不妊に悩むカップルに対する治療法の一つとして確立されている。これまでは、助成金制度はあるものの全額自己負担で受ける必要があったため、子どもを望むカップルにとって経済的負担となっていた。その意味では、これまで費用面で躊躇していた患者が、保険適応で治療が受けやすくなることは朗報であろう。
一方で、保険診療となったことにより、いろいろな制約が出てくることとなった。生殖補助医療では、多くのオプション的な治療があり、不妊症の原因や病態に応じて組み合わせる、いわゆるオーダーメードの治療が主流である。これまでの自費診療であれば、治療方法を患者と相談して自由に決めることができたが、保険診療では治療に制限が加わる。どこまでがエビデンスの確立した標準治療で、どこまでがいまだ研究的な治療かの線引きがあいまいであり、今回の改定では日本生殖医学会のガイドラインにおけるエビデンスレベルが参考にされ保険の枠組みが決められたようである。その結果、根幹の治療は保険収載されたが、オプション的な治療の多くは保険診療には採択されなかった。このうち一部は先進医療に採択され保険診療と併用することが可能となったが、先進医療にも採択されなかった治療法もある。生殖補助医療についても混合診療は認められていないため、先進医療にも採択されなかった技術を併用するためには、治療全体が自己負担となってしまう。
また、生殖補助医療の保険算定要件は複雑である。例えば、治療開始日の年齢が40歳未満の場合には6回まで、43歳未満の場合には3回までなど、算定には年齢制限や回数制限を伴う。法律婚でなくても実施は可能であるが、法律婚以外の場合には、重婚でない、同一世帯である、認知の意向を確認する必要がある。他院からの転院などの際には、医療機関でこれまでの治療回数などを確認する必要があるが、治療後に適応外であったことが判明する可能性もあり、算定要件が複雑であるが故の混乱も予想される。
不妊治療の保険算定は、今回新たに制度設計され保険収載されたものであり、運用もまだ始まったばかりである。これからの動向を注視していく必要がある。