談話・改定率合意を受けて  PDF

リフィル処方箋導入、乳幼児感染症対策加算打ち切りで財源捻出する暴挙
中医協の空洞化もたらす「注文だらけ」の大臣合意に断固抗議する
2021年12月27日 理事長 鈴木 卓

 21年12月22日、鈴木俊一財務大臣と後藤茂之厚生労働大臣が大臣折衝を行い、2022年度診療報酬改定率を合意した。本体プラス0.43%とされているが、このうち①看護職員等の処遇改善にプラス0.2%②不妊治療の保険適用にプラス0.2%を充てるとしている。
 一方、③リフィル処方箋導入による受診抑制でマイナス0.1%、④乳幼児感染予防策加算打ち切りでのマイナス0.1%分を財源として「公称」プラス0.23%とした。しかし、①②は目的が定められた政策改定であり従来の医療技術にはプラスとならない。また③④は保険医療費から剥ぎ取って獲得した財源であり、本当の意味の本体プラスとは言えない。すなわち「公称」0.23%はまやかしであり、実質わずか0.03%の微々たる引き上げだ。
 薬価・材料価格はそれぞれマイナス1.35%、マイナス0.02%である。薬価は21年4月にも収載医薬品の約7割を対象に引き下げられている。またしても大幅なネットマイナス改定となり、医療機関等の経営努力で引き下げられた薬価改定財源は「フィクションにフィクションを重ねたもの」と嘲笑した財務省に奪い取られ、技術料に回されない財源の収奪改定が繰り返されている。
 また、異例にも「制度改革事項」としての七つの「見直し・適正化」が列挙され「改革を着実に進める」とされた。政府の言う「見直し・適正化」はすべからく引き下げ・抑制を示しており、22年2月の中医協答申まで注視が必要である。
 今回の改定率決定において、批判しなければならないのは以下の点である。
 【1】リフィル処方箋では、大臣合意はリフィル処方箋の活用により「再診の効率化につなげ」ると明記している。つまり、再診時の受診抑制を期待し、かかりつけの保険医の役割を調剤薬局に一定譲らせることも狙っている。中医協で診療側・支払側の意見が対立している事項の導入を頭ごなしに決定した上に、医療費抑制効果を期待することは許せない。患者の健康管理に対する自己責任論の拡大も見え隠れする。
 【2】看護職員の処遇改善では、診療報酬の枠内で賃金改善を目的とする点数を新設することが正しい方法なのか。また、「救急医療管理加算を算定する救急搬送件数が年に200件以上の医療機関及び三次救急医療機関」に限ることにより、賃金格差や看護職員の施設間偏在を招き不適切となる。
 【3】感染症対策では、従来の初・再診料では、新興感染症に立ち向かうため感染防止対策の費用は全く評価されていないことは明確である。速やかに感染症対策実施加算を復活すべきであり、いわんや乳幼児感染予防策加算の打ち切りは認められない。廃止するならば初・再診料を大幅に引き上げるべきである。
 【4】不妊治療の保険適用は、財源的には国と自治体で実施されていた特定不妊治療支援事業を、国民、事業主、自治体、国が保険料負担する医療保険の財源に付け替えたに過ぎない。神奈川県保険医協会の試算によれば現在の特定治療支援事業の21年度国庫分の予算約325億円を医療保険に投入した場合、医療費ベースで約1300億円となり、改定率としては0.3%となるはずだが0.2%と記載されたことは疑問だ。低く評価されることがないか注視したい。一方で患者負担増を懸念する声もある。中医協では自治体首長の支払側委員が繰り返し「患者負担が増えないように」と訴えかけている。多くの患者にとって負担が増えることになるなら、保険診療移行後速やかに公費負担医療制度を創設して、患者負担を軽減すべきだ。さらに、もっと大事なのは安心して産み育てられる社会の創造である。現政権にはこの観点が全く欠落している。
 【5】中医協機能の軽視が看過できないところまできている。答申付帯決議、さまざまな調査、多方面からの意見を踏まえた保険局医療課の提案に対する各側の真剣な議論も、それらを反映しえるだけの引き上げ率がなければ空虚なものとなる。大臣合意や社保審の方針決定の点数化下請け機関に貶められた中医協に本来の役割を取り戻させる必要がある。
 【6】大臣合意内に書き込まれた七つの「制度改革事項」だが、財務省のスタンスは明らかに「金は出さないが口は出す」ものであり、国民の健康と生命を人質として厚生労働省に屈辱的な「注文」=無理難題を吹っ掛けたとしか見えない。とりわけ「かかりつけ医機能に係る診療報酬」「OTC類似医薬品の保険外し」「湿布薬の処方」等の「改革を着実に進める」と書かれたことは非常に危険だ。フリーアクセスを原則とし「保険で良い医療」の充実を目指す我々保険医団体として見過ごすことができない。
 最後に、2022年改定で導入予定の受診時定額負担の拡大は法の目をかいくぐった保険給付引き下げ、保険給付外しである。22年10月には高齢者の負担割合2割化も予定されている。現政権はこれまでの政策の誤りのツケをどこまで医療機関、医療従事者、患者に押し付け、医療費抑制策を続けるのか。医療・保健・福祉の現場が疲弊して、患者・国民の多くが困窮に喘ぎ、社会保障が荒廃しては、人々の心は荒み、社会不安が広がってしまう。
 「療養の給付」の現物給付たる診療報酬の改善により、社会保障を充実することが何よりも求められており、今回の改定率合意はこれを真っ向から否定する暴挙である。

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