なんでも書きましょう広場 地域医療者のワクチン接種への貢献 第5波における死亡者の大きな抑制に  PDF

 2020年の3月以降、現在まで我々は第5波の感染者のピークを観察している。そのうち第1~3波はワクチンの接種が進んでおらず、第4波で医療従事者、高齢者や感受性者に接種し、ほぼ第5波の前には打ち終え、5波の終了する11月にほぼ希望した国民に接種し終えた。第5波の感染者が急速に減少した原因について多くの議論が交わされているが、一方、第5波は第4波に比べ感染者数が圧倒的に多いにもかかわらず、死亡者が少ないことについての議論はほとんどない。私はこの議論は非常に重要であると考えるとともに、整然と進んだワクチン接種が第5波の死亡者を減少させたと考える。理由は以下の通りである。
 感染症では一般に、感染者数は時間差をともなって死亡者数と相関を示す。そこで、
COVID―19
においてNHKの公開データを用いて第3波と第4波の感染者数と死亡者数の解析を行ったところ2週間遅れの死亡数が、感染者数と極めて高い相関を示す(r2=0・8663、p<0・001)ことが分かった。その関係を用いて、第3波から第5波の予測解析を行ったところ、図に示すように第3~4波では、予測値は実測死亡数と合うが、第5波(7月1日~10月24日)の全国の新規感染者数に対する死亡者数が、予測値1万6114人に対して3415人、約1万3千人減の、約21%に抑え込まれていた。
 では、なぜこのような死亡の大きな抑制が可能となったのであろうか? これは新型コロナワクチンの接種による効果が大きいと考えられる。全国の2回目接種終了者は11月5日時点で人口の74%に当たる9255万6990人に達していた。
 そのような迅速な接種はなぜ可能となったのであろうか? 接種者のうち、自衛隊による大規模接種会場や大企業の職域接種等を除く人口の62%にあたる約7700万人への接種は、個別医療機関あるいは集団接種会場で行われたものと考えられる。接種を担ったのは地域の医療者であり、地域の医療機関によるワクチン接種協力体制の寄与するところが大きい。
 このように、地域の公衆衛生活動に医療者が積極的に参加し、整然と地域住民にワクチン接種を行い、死亡を大きく抑制しえた今回の経験は、今後の公衆衛生政策の在り方を考えるにあたって、極めて重要である。この公衆衛生機能は、地域の開業医を含めた地域の医療者が担ったものであり、その機能を正しく評価し、地域医療計画の中では守るべく感染症予防機能として考慮されるべきであろう。
(京都大学名誉教授・政策部会部員 小泉 昭夫)

図 予測と実測死亡数

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