最先端技術のロボット肝胆膵手術を学ぶ  PDF

 外科診療内容向上会が10月30日、京都外科医会と協会の共催で開催された。済生会京都府病院統括副院長・部長の藤信明氏が会を進行し、ウェブ参加を含む31人が参加した。まず京都外科医会の猪飼伊和夫会長と協会の鈴木卓理事長があいさつ。協会の曽我部俊介理事より新型コロナ関連の臨時的な診療報酬の情報提供後、特別講演として、名古屋市立大学大学院医学研究科消化器外科学分野・講師の森本守氏が講演した。

外科診療内容向上会レポート

 森本先生の所属される名古屋市立大学消化器外科学講座ですが、内視鏡外科学会で指導的立場にある瀧口教授のもと一貫して最先端の技術に取り組んでいます。森本先生はその中でも肝胆膵に特化され、ロボット肝切除に関する情報発信をされている数少ない外科医の一人です。
 1990年代前半に腹腔鏡下の肝切除や膵頭十二指腸切除(PD)が世界で初めて報告されましたが、開腹手術に対する安全性、優位性の検証が不十分なことや、技術的困難性から長らく肝胆膵の鏡視下手術は標準手術の地位を獲得できずにきました。03年にロボット支援下肝、膵切除が初めて報告されて以降、手術支援ロボットは急速に発展しており、また操作制限という鏡視下手術のデメリットは手術の定型化によって克服されつつあり、肝胆膵分野でもロボットによる手術成績向上が期待されています。
 森本先生が手術において重視するのは、観察、分析の後に目的を明確にし、プランニングしてから実施するということです。鏡視下手術には明確なコンセプトと完成形のイメージが不可欠ということを強調されました。手術ビデオを提示しつつ、膵体尾部切除(DP)、PD、肝切除の順に名古屋市大の状況を含めてお話しいただきました。
 ロボットDPは保険適応となる数年前に着手し、現在は膵がんを含めてすべてのDPをロボットで行っています。基本操作はダブルバイポーラ(オートカットモード)で行うこと、1stポート(術者の左手)をやや頭側において郭清時に血管や残膵にシャフトが当たらないようにすること、LCSでなく関節のある vessel
sealer を使用することなどのコツを解説されました。
 PDは腹腔鏡で行うメリットを感じられず、21年4月に腹腔鏡を導入してすぐにロボットに移行しました。ポートはやや尾側に置き、下から見上げる視野を活かして#14、#8~12のしっかりした郭清手技を供覧されました。
 ロボット肝切除は20年4月から臨床試験として取り組み、現在は肝切除の3割ほどを占めます。S7、S8の腫瘍でも30度アングルのスコープで十分に見え、バイポーラによるクランプクラッシュと吸引で比較的自由に肝実質の切離面を作ることができて、胆道再建を含む拡大手術もすでに2例行われています。
 ビデオを拝見して特に印象的だったのは、術野展開にこだわって、それに十分な時間をかけていることです。会員の皆様からは、門脈を直接把持して術野展開するシーンに関して質問がありました。ロボット手術では、触覚がないデメリットを視覚と経験で補って、門脈把持もあえて行うことで術野を完全に術者のコントロール下におくメリットがあるとのお答えでした。鼠径ヘルニアにも適応が広がることが予想されるロボット手術ですが、難易度の高い肝胆膵外科の分野では、術者に一定の経験値が求められることを再確認しました。
(西京・西躰 隆太)

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