経皮的冠動脈インターベンション術後に右足のだるさ等を発症
(70歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
患者には、糖尿病、高血圧の既往歴があった。患者は本件医療機関にて冠動脈造影検査と経皮的冠動脈インターベンション(PCI:Percutaneous Coronary Intervention)が実施された。経過は良好であったが、術後約20日後に患者から体動時の呼吸苦・違和感が訴えられ、精査。その結果、再度PCI実施となった。
患者は、帰室1時間後に右下肢のだるさを訴えるとともに右足背動脈触知不能となったため血管造影を実施。検査時には足背動脈の触知も可能となり、翌日退院となった。しかし、患者はその後も右足部のだるさ等を訴えたため、右大腿穿刺部の血管エコー検査を複数回にわたり実施した。最初のPCIから約7カ月後にも血管エコーを実施したが、その後自覚症状が軽快。他院に通院となった。後遺障害は認められていなかった。
患者側は、右大腿部の治療期間が長期化したのは医療過誤であるとして、謝罪を求めるとともに、額は明確でないが賠償を請求してきた。
医療機関はアンジオシールを用いた止血実施手技は問題なく、止血後に痛みは認められず、下肢に異常もなかった。血流が一時的に低下した原因として、①シースの先端で血管壁の解離を形成②アンジオシールのアンカーが血管壁に密着しなかった―ことによる血栓の形成が推測される。
患者の現状は独歩等に障害はなく、エコー上、血流も保持されている。しかしながら一時的に血栓が増大して内腔をさらに狭窄させる危険を考慮して、慎重を期して経過観察中とのことだった。
以上のことから、治療はスタンダードな基準に基づいて実施されており、医療過誤を認める点はないと主張した。ただし、後述の通りの反省点があるとし、院長から患者に対して道義的謝罪を複数回にわたり行い、医療費も数回免除した。
反省点は、①附属品のワイヤーを使用せずに、適切と思われるワイヤーにしていれば事故を防げた可能性があった②執刀医はワイヤー挿入時に抵抗があったことを自覚していたので、その時点で撤退していれば事故を防げた可能性がある―の2点。
紛争発生から解決まで約2年2カ月間要した。
〈問題点〉
診断とアンジオシールの適応については問題ない。手技に関しては、明らかな過誤を指摘できる点は認められないが、執刀医がワイヤー挿入時に抵抗を感じながらも、手技を継続した点は争点になる可能性があっただろう。
また、医療過誤が認められない以上は、道義的責任と賠償責任は区別しなければならない。医療費を免除したことは賠償責任を一部であれ認めたことになりかねない。現実的には医療費を免除することで、紛争拡大を防ぎ得る可能性を望んだことは理解できるが、医療過誤の有無が明確になるまでは、医療費は免除ではなく「保留」とすべきである。医療機関におかれては医療費の「免除」と「保留」の違いをぜひとも認識いただきたい。
〈結果〉
医療機関側が、調査結果を患者側に伝えて、医療過誤とまでは判断していないことを伝えた結果、患者からのクレームは途絶えたので、立ち消え解決とみなした。