子宮頸癌はほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)によるものと考えられている。HPVワクチン接種の積極的勧奨再開が、本年(2021年)11月12日に、厚生労働省の担当専門部会などにて、了承された。厚生労働省健康局長が近く再開の通知を出すとみられる。
経緯である。2013年4月に、小学校6年生から高校1年生の女子を対象に公費によるHPVワクチンの定期接種が始まったが、接種後の体調不良(副反応)がメディアに大々的に報じられ、厚生労働省は積極的勧奨を差し控える通知を同年6月14日付で自治体に出した。
勧奨停止の後、日本での定期接種率は80%から1%以下に激減し、近年では世界保健機関(WHO)から、日本へのワクチンの割り当てを減らすべきとまで指摘された。
問題となった副反応についてはメディアが取り上げ続け、現在も裁判にて係争中である。しかし、HPVワクチン接種との因果関係が有意に認められないことは「名古屋スタディ」などでも報告された。WHOは2019年末、一般的に注射への緊張や不安によるさまざまな症状を「予防接種ストレス関連反応(ISRR)」と呼んだ。思春期前後の接種でISRRが強く出る可能性があることは理解できる。
子宮頸癌発症防止の有効性についてのエビデンスは多い。部会ではイギリスからの論文が報告された。スウェーデンや国内の報告は、厚生労働省のホームページからも確認できる。これらの報告に対して、相対的に有効に見えても絶対値が小さいから不確かだと接種反対者が異議を唱えるが、母数を動かせば何でも小さく見せることができる。統計上有意に有効なものを保健衛生で採用するのは当たり前であろう。接種被害者に寄り添うのが重要というのであれば、マザーキラーと呼ばれる子宮頸癌のために、妊娠を諦め、子を育てながら闘病し、子を残して亡くなるケースが減ることは重要である。定期接種率減少に伴い子宮頸癌発症者は増え、近年の子宮頸癌の死者数は年間2800人に上る。
勧奨されなかった期間に接種機会を逃した女性への救済策は分科会で検討されるという。接種後のトラブルに対応したバックアップ医療機関の連携についても怠らず検討いただきたい。2価、4価ワクチンに加え、より対応するウイルス型の多い9価ワクチンが日本でも承認された。より有効で、安全な接種が今後も求められる。
HPVの主要伝播様式はセックスを含む濃厚な接触である。接種勧奨は性的な乱れを呼ぶとの主張があるが、ワクチンで半減するマザーキラー疾患をそのために放置する理由にはならない。公的性教育の立ち遅れた日本で、接種しなければ性行動を控えるだろうという非現実的な主張以前に、そもそも女性自身の身体に関する自己決定権を無視した議論はやめるべきで、アフターピルや薬剤的妊娠中絶についても前向きに検討されねばならない。
感染源として大きく考えられる初交年齢以上の男性全体に関しても、定期接種が必要ではないか。HPVは男性においても中咽頭がん、陰茎がん、肛門がん、尖形コンジローマなど、さまざまな病態を引き起こす。ワクチン接種は男性自身にも利益がある。
医療法第1条には、「(医療の)内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置およびリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない」と定められている。国民の保健衛生向上と維持に有効であることが現時点でのエビデンスで明らかである以上、HPVワクチンの接種勧奨再開を、京都府保険医協会は積極的に支持するものである。
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