診察室よもやま話2 第1回 飯田 泰啓(相楽)  PDF

発熱
 新型コロナ感染の第5波は、9月下旬から10月にかけて急速に鈍化した感がある。とは言っても、医療機関や介護事業所にとっては、まだまだコロナ感染には注意しなければならず、発熱には神経を尖らせることになる。自院では発熱がある場合には、来院前にあらかじめ電話をしてもらうようにしている。当地区では、医師会員が交代で出務し、発熱患者に対応する検査センターを実施していた。しかしながら、ドライブスルー方式の検査センターを紹介することが難しい患者さんもおられる。
 脳梗塞後遺症で右半身麻痺のあるNさんもそんな一人である。歩くことができないものだから、数カ月に1度、ご家族に車椅子を押してもらって来院される。そんなNさんの家族から電話があった。
 「おばあちゃんがデイサービスに行ったのですが、熱があるといって帰されたのです」
 「それで、ぐったりしているのですか」
 「いいえ、ちゃんと話をしていて、食事も摂れています」
 「咳や痰は? 下痢は? 臭いや味は分かると言っていますか?」
 「そんなのは大丈夫です。熱だけです。今は36・5℃なのですが。デイサービスで預かってもらえないので困っているのです」
 熱があるだけで、身体状態は良いようである。これまでから顔なじみのNさんなので、電話で済ますわけにもいかない。コロナに罹患しているとは思いにくいが、もしコロナ感染であれば面倒なことになる。午前の診療が終わってから連れてきてもらうようにした。
 とりあえずは、マスクとフェイスガードをして診ることにした。
 「息苦しいですか」
 「いいえ。でも、デイサービスで37・5℃の熱があったので、診察してもらえと言われたのです」
 「それで、コロナ陽性者の方と接することがあったのですか?」
 「この通り、一人で歩くこともできないので、デイサービスに行くだけです。人ごみにも行っていないし、デイでもコロナなんて聞いていません」
 診たところ、いつもと変わったところはない。恐縮しながらもよく話をする。動脈血酸素飽和度も98%ある。とりあえず唾液でのPCR検査をして、胸部レントゲンと採血をして帰宅してもらった。ご家族には熱型表を付けてもらうことにした。
 後日、ご家族が来院された。
 「その後、熱は続いていますか」
 「朝は大丈夫なのですが、夜になると、あいかわらず熱があります」
 「コロナの検査は大丈夫でした。レントゲンも採血結果も大丈夫でした。付けていただいた熱型表では夜に37℃を少し超えるだけですね」
 「どうして熱が出ているのでしょう」
 「それは分かりませんが、朝と夜では体温は違うのです。外の気温によっても体温は変化します。暖房の下にいたら体温もあがりますよ」
 「デイに行ってもよいでしょうか」
 「もちろんです」
 その後も、熱型表を付けてもらったが、夕方に37℃を少し超えるだけであった。体調にも変化は現れなかった。
 新型コロナの流行から、世間はピリピリしている。とりわけ介護事業所にとっては、利用者さんにコロナ患者が出てクラスターが発生すると死活問題となる。そのため、利用者さんの発熱には過剰反応を示すことになる。
 東京都は繁華街や企業などで希望者に新型コロナのモニタリング検査を実施している。9月16日付の日経新聞によると、9月初旬の1週間のPCR検査陽性者は人口10万人当たり640人で、そのほぼすべてが無症状者であった。一方、感染を疑う人や濃厚接触者が対象の行政検査でのPCR検査陽性者は62・5人で、モニタリング検査での陽性者が行政検査の10倍であった。感染に気付かないまま生活する無症状者(隠れ陽性者)が多いことが伺われた。
 第5波が落ち着いたこの時期に、隠れ陽性者の多い感染集積地でのサーベイを徹底することで、これらの無症状感染者から、ふたたび感染が広がらないようにすることが必要ではないかと思っている。
 その後も、熱型表を付けてもらったが、夕方に37℃を少し超えるだけであった。体調にも変化は現れなかった。
 新型コロナの流行から、世間はピリピリしている。とりわけ介護事業所にとっては、利用者さんにコロナ患者が出てクラスターが発生すると死活問題となる。そのため、利用者さんの発熱には過剰反応を示すことになる。
 東京都は繁華街や企業などで希望者に新型コロナのモニタリング検査を実施している。9月16日付の日経新聞によると、9月初旬の1週間のPCR検査陽性者は人口10万人当たり640人で、そのほぼすべてが無症状者であった。一方、感染を疑う人や濃厚接触者が対象の行政検査でのPCR検査陽性者は62・5人で、モニタリング検査での陽性者が行政検査の10倍であった。感染に気付かないまま生活する無症状者(隠れ陽性者)が多いことが伺われた。
 第5波が落ち着いたこの時期に、隠れ陽性者の多い感染集積地でのサーベイを徹底することで、これらの無症状感染者から、ふたたび感染が広がらないようにすることが必要ではないかと思っている。

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