シリーズ環境問題を考える 151  PDF

地質時代に「人新世」を認め
地球環境の危機を乗り越えよう

 地球は46億年前に誕生しました。「地質時代」という時代区分があり、「地質学」は地球が火山の大噴火、丸ごとの冷凍化、隕石の衝突など地球環境の劇的な変化の中で、地球上に生物が誕生し、絶滅と繁栄を繰り返してきたことを地層や岩石などから推測・研究する学問です。
 古い順から、先カンブリア時代、古生代、中生代、新生代に分かれます。38億年前に地球上に生命が誕生し、20万年前に非現生人類が誕生。さらに大脳前頭前野を発達させた、現代人と言うべきホモ・サピエンスが6万年前に誕生しています。
 人類は繰り返す氷河期を辛うじて生き延びましたが、現在の文明が発展したのは1万2000年前から始まった間氷期(完新世)の間です。この間、地球の平均気温は上下1℃の変動幅の中で、極めて安定していました。この奇跡的に穏やかな地球環境のもとで、人類は農耕文明を発展させ、都市を作って分業し、技術や制度を発展させました。文明は完新世の賜物でした。
 2000年には、オゾンホールの研究でノーベル賞受賞歴のある大気化学者パウル・クルッツェン(1933~2021)が、現在は人間の活動により「完新世」という区分はもはや適応できず、「人新世」(アントロポセン)という言葉を発案しました。現代世界における消費と生産の巨大な規模と速度、自然資源の過剰な搾取、大気、水、土壌などの環境システムの質と機能の劣化、生態系の破壊そして地球規模の大量絶滅に匹敵する速度での生物の絶滅などによって、人類は惑星地球の変化を引き起こす主役になったと言うのです。具体的には、1950年代以降、人間が地球にかける圧力の急激な増大や産業革命以降の世界気温の例外的な速度での上昇が示されています。
 地球が健全な状態にあって、地球の回復力が高度に保たれていれば、何らかのストレスや衝撃が加わっても、フィードバックが作動し、抑制し緩和することで安定した状態を保てます。
 これまでの気候システム研究では、15の気候に関する「ティッピングエレメント(臨界要素)」(アマゾン熱帯雨林、シベリアのツンドラと永久凍土、温帯雨林システム、北極と南極の氷床、珊瑚礁など)のうち、九つが弱まり不安定化しています。北極海氷の消失、珊瑚礁の大規模な死滅、西南極氷床の融解は、気温上昇が1・2℃の現時点で、すでにティッピングポイントを超えた可能性があります。すなわち引き返し不能点を過ぎた可能性があり、他のエレメント(要素)にも深刻な影響を及ぼすとされています。
 私たちは、「地球温暖化」「気候危機」「地峡環境の悪化」「生物多様性の消失」「パンデミックの多発」「放射性物質・プラスチックの蓄積」などで特徴づけられる、「人新世」の時代を生きているのです。
 しかし、「人新世」は正式に国際層序委員会で決められていません。今後の調査や下部組織での承認が必要となります。最終的には国際地質科学連合の理事会で24年に正式に決める流れのようです。
 私たちは今、「人新世」を承認し、「グローバル・コモンズ」の概念を採り入れた新たな目標に向けた国際協力とともに、環境を守り、豊かさを拡大し、循環型経済、持続可能な社会を創り出すための地域での活動やライフスタイルの見直しを迫られています。
(環境対策委員 山本 昭郎)

ページの先頭へ