ここ数年、医療安全対策部会は、医療機関・施設での転倒・転落事故のセミナーなどを開催してきた。5月に開催したウェブセミナーでは、全国から約540人の参加があった。この関心の高さは、公表されている件数以上に医療機関・施設での転倒・転落事故が存在すること、またその対応に苦慮していることをうかがわせた。
医療機関や施設での転倒・転落事故は、多くの医療・介護の資源が費やされているにもかかわらず後を絶たず、本来の業務に支障をきたしている。
医療機関・施設で発生した転倒・転落事故は、責任問題に終始することが多い。しかし、事故の原因は不可避と思われるものも少なくない。
このような現状を鑑み、2021年6月11日、一般社団法人日本老年医学会と公益社団法人全国老人保健施設協会が「介護施設内での転倒に関するステートメント」を発表した。これは「老年症候群の観点から見た転倒予防とその限界に関する検討ワーキンググループ」の約2年間の検討を踏まえたもので、転倒は老年症候群の一つの症候であると指摘。ステートメント1では、「転倒リスクが高い入所者については、転倒予防策を実施していても、一定の確率で転倒が発生する。転倒の結果として骨折や外傷が生じたとしても、必ずしも医療・介護現場の過失による事故と位置付けられない」とし、これは科学的エビデンスに基づくものと述べている。
日々高齢者の転倒・転落と向き合う医療・介護現場にとっては、画期的なステートメントである。我々が取り扱う転倒・転落事故でも、典型例は一瞬目を離した時に起こるものであり、マンパワーも限られた現場で、これを過失事故として扱うには理不尽というものも多い。
ただし、今回のステートメントが社会一般の共通認識となるには、我々医療者・介護者の更なる努力と時間が必要であろう。
更なる超高齢社会を控えて、高齢者の転倒・転落問題を医療者・介護者だけのものとせず、社会全体で取り組むべきものとすることが望まれる。
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