協会が福祉国家構想研究会、全日本民主医療機関連合会と共催するオンライン連続講座の第2講座「地方自治、地方経済のゆくえ―地域を支える方途を探る」を7月24日に開催。全国から86人が参加した。川上哲氏(三重短期大学准教授)が聞き手を務め、岡田知弘氏(京都橘大学教授)と関耕平氏(島根大学教授)がスピーカーを務めた。
岡田氏は「コロナ禍で鮮明となった地方自治と地域再生をめぐる対抗軸と展望」をテーマに講演。安倍政権が新型コロナウイルス感染症拡大に対する人々の不安・不満に追い詰められる形で退陣し、代わって菅政権が誕生したが、引き続く「惨事便乗型」の悪政によって人々の生命が脅かされている。そうした中、今問われているのが地方自治体の「公共性」だと指摘した。菅政権の下で成立したデジタル改革関連法はトップも含め、職員が民間企業から派遣され「行政の私物化」の土壌が形成される。個人情報保護を骨抜きに、個人データを民間企業に利活用させて市場創出につなぐ。そして地方自治体の「情報基盤」「書式」が標準化され、これを梃子に地方自治体を国の従属物化するという重大な内容である。
この間、公務労働者を削減しつつ、自治体を儲けの場にする改革が進められてきた。しかし、コミュニケーションと現物サービスの提供が基本である公務労働をAIやシェアビジネスが代替することは不可能である。コロナ禍において、国の無為無策の中、独自の対策に乗り出す自治体も少なくない。とりわけ小規模自治体の優位性が際立っていることに展望がある。必要なのは押し付つられる「新しい生活様式」ではない。「新しい政治・経済・社会の在り方」である。憲法と科学的データをベースにした公平・公正な政治、そして、生命・基本的人権・暮らしを守る地域経済政策の実現を目指す必要があると訴えた。
関氏は「地方政策をめぐる対抗軸―『小さな拠点』形成政策のせめぎ合いに見る公共部門の縮減・共助の強制・地域の自己責任を超える論理」をテーマに講演。
コロナ禍で小規模自治体の価値が見直されつつある。この間、地方政治では相次いで保守分裂の知事選挙が行われた。背景には地元選出国会議員と地元地方議員の対立がある。大物代議士が地元の政治をグリップできなくなっている。この背景には、あまりに地方が痛めつけられ過ぎたことがある。一方政治の動きとは別に、地道な地域づくりの先進事例も累積し始めている。それらは国が準備した「小さな拠点」づくりに乗った取組である。国が「小さな拠点」を打ち出した政策的文脈とは、「撤退戦を前提」に生活機能を周辺集落からの「集約」することであり、公共部門縮小の代替を住民自身に担わせ、公の財政支出削減を目指すことである。だが、そうした政策意図を超え、過疎地において住民の生活機能を維持するため、優れた実践が重ねられている。こうした取組から批判的・対抗的な視座を引き出し、自律的取組(優れた自治)と「財源保障」(充実した財政)の変革の展望を示すことが必要と訴えた。
後半は川上氏の司会で鼎談。ヨーロッパにおけるインソーシングの実例や内部循環型の取組を進めた京都の商店街の取組等が紹介された。また、デジタル改革が自治体を統制し、情報をビジネスチャンスとして吸収し、民間に流し込むための仕組づくりであって、地方経済を衰退させるものだとあらためて警鐘を鳴らした。その上で、必要なのは地域の主権性の回復であり、憲法に即した政策への転換であること。そのためにも公共サービスを私的な利益のために使わせないことが重要と意見交換した。