岩田健太郎氏が総会後に講演 コロナウイルス最新の知見語る  PDF

 協会は8月1日に開催した定期総会で、神戸大学大学院医学研究科感染治療学教授の岩田健太郎氏の講演会をネットで開催。「新型コロナウイルス感染症の真実―我々はどう備えるべきか」と題して、最新の知見等を参加者の質問に数多く答えながら語っていただいた。参加者は147人となった。

 岩田氏は、現在コロナに感染している世界の人口が約2億人とデータを紹介。多く感じられるが、世界人口が約70億人ということを考えると、ほとんどの人がまだ感染していないと言える。ワクチンも先進国では接種が進んでいるが、途上国はこれからという段階。収束にはまだしばらく時間がかかるだろうと述べた。
 また、コロナによる世界の死亡者数は400万人に上ると言及。これだけの死亡者を数える感染症は現代では見当たらない。この数字が世界に与えるインパクトは絶大であり、ここ100年間で人類が経験した感染症では、最大・最悪のものと言えるとした。
 一方、どの国においても死亡率は1~2%で、それほど高くない。日本の死亡者数は約1万5千人で欧州と比較するとかなり少ない数字だ。最も死亡者を出しているアメリカでは約60万人だが、どちらも死亡率に極端な差はない。死亡率の低さがかえってあだになり、感染者数の増加を招いて世界的パンデミックを引き起こすことになったとも言える。日本でこれだけ死亡者が少ないのは、ひとえに感染を抑え続けてきたからに他ならない。感染者数をどれだけ低く抑えられるかが「鍵」と説明した。
 残念ながら現在の政府のコロナ対策は対処療法的でしかなく、戦略がない。感染症対策は「狭く・短く・強く」が基本。(今の)日本の緊急事態宣言はそれと真逆となってしまっていると憂慮した。

欧州や中国の戦略

 欧州においては多くの国で行われたロックダウンで一定の感染を抑え込むことに成功している。しかし、欧州でも日本と同じように自粛疲れが現れ始め、現在は当初の頃のような抑え込みになっていない。また、欧州の人たちはマスクに抵抗があるため、あまりつけないことも感染者数増加の誘因となっているのではないかと分析した。
 イギリスは一時、1日の感染者数が5万人を超えていた。その後も行動制限を緩めていったが、今はピーク時の半分ほどの感染者数となっている。この要因がわからない。感染者数に対する死亡者数も1%より低いが、これは明らかにワクチン効果で、イギリスは1回目接種が国民の90%、2回目接種が70%超となっている。
 中国がコロナを抑え込んだのは、感染経路を徹底的に遮断したからだと述べた。

ワクチン戦略の見通し

 参加者からワクチンの有効性について問われると、今のワクチンはどの変異株に対しても有効であることが確かめられている。一つだけ、南アフリカの変異株に対してはアストラゼネカが効きにくいと言われているが、それぐらいだと説明。現時点では大きな武器と言えるとした。

PCR検査の活用方法

 また、PCR検査の活用方法について問われた岩田氏は、PCRを実施することで感染症を抑え込むきっかけにできると解説。勤務病院では、原因不明の肺炎があるが、PCRでは陰性となる入院患者であっても、隔離解除は行わない。肺炎の診断がつくまでPCRを繰り返し、3回目で陽性となった事例がある。こうしたことを積み上げて患者数を減らす。そのためにPCRをどう活用するかで、一つのツールだと考えている。大事なのは結果を出すことだと述べた。

抗体カクテル療法の見通し

 ここのところ抗体カクテル療法が取り沙汰されているが、モノクローナル抗体のことで、免疫グロブリンである。免疫グロブリンでの感染症治療は昔から行われており、抗生物質での治療よりも歴史は古い。
 副作用のトラブル等から、抗生物質が主流となっていたが、70年代から免疫グロブリンを大量に、また遺伝子工学の進歩によりヒト由来のタンパクで生成することが可能となり、副作用が激減した。感染症に使用するようになったのは、エボラ出血熱から。ここから感染症にモノクローナル抗体を使うスキームができ上がったと解説した。
 コロナの流行当初から、この抗体が治療法として使われたが、すぐにワクチンが変異し耐性がついてしまうことから、2種類の抗体を投与するカクテル療法へと変更。臨床効果が確かめられ、デルタ株にも有効だと説明した。
 ただし、重症患者にはこの療法は効かない。大事なのは、感染初期で抗体療法を行うことだと強調。初の重症化を防ぐ治療法になると期待していると述べた。
 一方で課題もあるとし、まず高額であること。海外の薬であることからどれだけ日本が確保できるのかということ。そしてウイルス変異の問題。ウイルスの耐性で、いつまで使えるかは現時点では不明だと述べた。
 さらに、ポストコロナ患者にも言及。後遺症と言われるような症状への対応の必要性は認識しつつも、残念ながら勤務病院では次々と運ばれてくる患者への対応で精一杯だとし、ポストコロナ患者についてはぜひ地域の医師の協力をお願いしたいと参加者へメッセージを発信し、講演会を終了した。

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