「平和のための京都の戦争展」が7月23、24日の2日間、京都教育文化センターを会場に開かれた。反核京都医師の会などでつくる反核ネット京都は市民講演会を23日に開催。安斎育郎氏(立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長)が「核兵器禁止条約のある世界」と「福島原発事故後の状況」の2部構成で講演を行った。オンライン視聴も合わせて63人が参加した。
第1講で安斎氏は、核兵器を巡る戦後情勢を解説し、核兵器禁止条約を手にした今、核兵器のない世界にするために我々がしなければならないことは何かを考えようと問いかけた。
一つは核兵器を使うことが前提の安全保障政策をとる核保有国の国民に主権者としての責任が問われている。広島・長崎のキノコ雲の下で何が起こったのか、核兵器使用の非人道性を強くアピールすること。そして、日本政府に被爆国としての重要な歴史的役割を果たすよう働きかけること。核・原発問題を国政選挙の争点にすべきと訴えた。最後に公法学者ゲオルグ・イェリネックの「事実的なもの」の規範力を、「みんながある行動を繰り返すと、それが『規範』のような働きをし、それを守らなくちゃという気になる」と意訳。国連加盟国の多数が批准すれば、条約に入っていなくても核兵器を使うなという規範力を持つようになる。批准国を増やすことが重要だとした。
第2講では、福島原発事故の解説とその後の状況について報告。事故では地震で送電線が倒れ、津波で非常用ディーゼル発電機が水没。発電所なのに電気がなくなった。測定器も照明も冷却装置も何もかも使えず、核燃料が溶融。高温の核燃料と水蒸気が反応して大量の水素ガスが発生し水素爆発を起こした。高放射能の溶融核燃料デブリが周りのものを溶かして潜り込んでいき、地下水脈にあたると水蒸気爆発を起こしかねない。毎日大量の水をかけて冷やしており、これが汚染水として貯められている。多核種処理設備ALPSで放射性物質を取り除くのだが、取り除けないのが放射能をもった水素が水のかたちで存在するトリチウムだ。この汚染水について経産省が海洋投棄の結論を押し付けてきたのは、科学である前に民主主義の問題。トリチウムは1~2ミリしか飛ばないβ線を出す物質。一つのアイデアとして、トリチウム水にセメントや砂利、砂を混ぜればコンクリートができる。水タンクからパイプラインで水を運び、放射性廃棄物中間処分施設をコンクリートで覆えば遮蔽物として有効に活用できる。
最近、放射能は原子炉や格納容器の底だけでなく、格納容器の上蓋にもものすごい線量が溜まっていることが分かった。事故原発の廃炉の見通しや帰還困難区域など高汚染地域の除染見通し、住民の被曝への科学的理解や根拠のない「風評被害」の克服など課題は多い。科学がいくら進歩しても放射能を消す薬は原理的にできないが、除去・遮蔽・距離・時間の四つの方法で被曝を減らすことはできる。事故後に立ち上げた「福島プロジェクト」の調査・学習・相談活動で、そうしたお手伝いをしていると紹介。電気を作る方法はいろいろあり、どれに頼るのか、原発に頼り続けるのかよく考えようと結んだ。