『現代医療とギリシャ神話』
岡本五十雄著
2017年12月23日発行
中西出版
1,980円(税込)
本紙3089号(新春特集号)に寄稿いただいたのがご縁で、北海道札幌市の社会医療法人社団三草会クラーク病院リハビリテーションセンター顧問の岡本五十雄医師から『現代医療とギリシャ神話』をはじめ数冊のご著書をいただきました。
本書では、なぜ医学・医療の象徴が「蛇と杖なのか」から始まり、身体の部位に関連する言葉、病名や症状に関連する言葉、心理学用語、薬関係、細菌に至るまでギリシャ神話のエピソードや由来に関連するものが集められています。
多神教の特徴なのか、ギリシャ神話の神様はとても人間的です。嫉妬はするし、嘘をつくし、騙したり諍いあったり。親子、兄弟、姉妹の間で殺し合いの悲劇もまま発生します。また一方で、そうした人間的な神様だからこそ、魅力的にも映ります。
もともとギリシャ神話に興味を持っていて、それこそ英雄アキレウスを由来にアキレス腱となったことなどは知っていました。しかし、医療や医療用語とここまで関連深いとは思っておらず、また本書ではその内容が軽快な文章で解説されていて、ギリシャ神話入門編にうってつけです。
私が特に興味深かったのは、森の妖精・エコーが全知全能神ゼウスの妻である女神ヘラの怒りを買い、自分から発する言葉を奪われ、他人の言葉を繰り返すことしかできなくなったエピソードや、ヘルメスと妖精の間に生まれた牧畜の神パンがパニックやパンデミックの語源というエピソードです。
牧畜の神パンは、川や森を支配し、羊をはじめとした家畜の守護神で、笛の演奏が素晴らしく、周りを楽しませる神様でした。しかし、昼寝中に誰かが物音を立てたり、遊んだりして睡眠を妨げると羊が荒れ狂う、あるいは死んでしまうほど大暴れしてしまうそうです。これがあまりにも恐ろしくパニックという言葉が生まれたとのことです。
その他にも、狂気の神リュッサから狂犬病(リッサ)、眠りの神ヒュプノスから睡眠薬ヒプノティック、海の神ポセイドンの息子プロテウスから変形菌であるプロテウス菌などさまざまです。また、本書を読んでいると医療に限らず、日常生活で何気なく使っている言葉もギリシャ神話由来であることがわかります。
ちなみに、冒頭の「蛇と杖」は医神アスクレピオスが持つ杖がモチーフとなっています。ぜひお手にとっていただきたい1冊です。
(事務局・二橋芙紗子)