肛門科の徒然日記 4 渡邉 賢治 (西陣)  PDF

手術後すぐに政務に臨んだルイ14世

 前回はルイ14世のために痔瘻の手術手技が確立されたことをご紹介しました。
 肝心のルイ14世の手術の状況はどうだったかというと、侍医団や家臣の多くが見守る中で、麻酔なしで手術は行われました。国王は痛みに耐えて手術は無事に終わりました。一貴族の証言では、「王は一言の苦痛も不満も言わずに、雄々しい戦士が戦場に向かう時のようであった」と記録が残っているようです。
 また、術後の経過ですが、手術後ルイ14世はその日の内に政務を行い、翌日には各国の要人と接見したとのことです。
 実際に無麻酔で手術ができ、政務に戻れるかを検証したことがあります。日本でも1823年に「要術知新」で痔瘻を切開する痔漏刀の使い方を説明しています。現在もメスなどで痔瘻を切開する手術があり、痔瘻の状態では無麻酔でも手術は可能だったと思います。また、術後1日以内の出血がなければ、止血術を要する出血はありません。術後や排便時の痛みも、思ったほどではなく、渡邉医院で行ったアンケートでは、術後最初の排便からほとんど痛みがないという結果でした。
 ルイ14世の術後も圧迫止血などで出血を抑えれば、排便時や術後の痛みは少なかったはずで、政務は可能だったと思います。
 痔瘻で悩んでいる患者さんは、放っておいたらどんどん痔瘻が悪くなって複雑になってしまうのではないかとか、手術を受ける際にひどく痛むのではないかと、とても心配して来院されます。
 最近はインターネットなどで多くの情報を簡単に集めることができます。ただ、情報が溢れ、何が正しい情報なのか分からなくなってしまい、自分に有益な一部分の情報だけを選んだり、恐ろしさだけに目を奪われたりしがちです。
 実際に来院された患者さんの中にも、インターネットで調べたら、すごく怖いことが載っていたと話す人が多いです。私たち医師は正しい情報を伝えていかなければなりません。また、本当に情報が正しいのかを検討しなければなりません。
 さて、その後ルイ14世によって円形講堂が建設され、外科学の研究や教育を行ったとのことです。やはりルイ14世は「太陽王」だったのでしょう。
 新型コロナで海外に行けるような状況ではありませんが、もし将来ヴェルサイユ宮殿に行かれることがありましたら、「鏡の回廊」の隣の部屋、「牛の目のサロン」でルイ14世は手術を受けたんだなあと想像してみて下さい。

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