医界寸評  PDF

 私たちは子どもの頃、いつも希望の中にいて明るい光がすぐそこにあるように感じていた。人生は白紙だったけれども、そこにどんな絵でも描き込めると思っていた。しかし現実は希望が叶うとは限らず、そんな人生と折り合いをつけることを学び、諦めることに慣れてゆく。そうして大人になった▼赤い風船という30分間ほどのフランス映画がある。主人公の小学生の男の子は赤い風船を持って学校へ行こうとする。しかし学校の入口に先生が立っていて、「そんなものは捨てなさい」と注意する。生徒は泣く泣く風船を空に放つ。学校は大人になることを教えるところ。赤い風船は希望の詰まった宝物。風船を手放すことで人は大人になるのだろう▼コロナ感染が蔓延する中、多くの人は諦めることに慣れっこになってしまった。しかし希望の風船は大人になっても手放してはいけないのである▼医療の現場では、75歳以上の人口の一定割合で窓口負担が2割に引き上げられることになった。今後、デジタル化や行政による医療介入の強化なども予想される。また感染症拡大による病床逼迫時には、一般診療所にも自宅療養者を支援する枠組みが構築されようとしている。激動の時こそ希望の風船を再び手にしよう。私たちが手にする風船は赤く、真夏の空はどこまでも青く、希望は青空を突き抜ける。(clear)

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