最期のお迎えに笑顔でいられるには日常生活の時からその精神修行を
本書は、「笑顔で最期を迎える生き方」ができるには、どのように奇跡を起こせるかと、故郷の島で仁の医療に打ち込もうとした医師岡原仁志氏の提言と実践との記録である。
もし、「あなたは、笑顔で最期を迎えられる自信がありますか?」と尋ねられたなら、「当然、ありますよ!」とは言えないし、正直に「全然ありません!」と言うのも悔しく、癪に触るような気もしてくる。「最期の日」がその内必ず来ると思って覚悟はしていても、もうすぐ来るとは全然意識していないのが正にこの今の現況である。
著者は、昭和35年の子年生まれで、瀬戸内海は淡路島、小豆島に次ぐ三番目に大きい周防大島(山口県)に育ち、順天堂大学で消化器外科を修め、在宅医療にも志し、平成15年、故郷の父の医院に戻ってきた。地域の中で高齢者が最期まで関わりを持ち合い、できれば集落のみんなで看取り葬るという伝統的なかたちもあればなあとの思いをも込め、高齢者への医療・介護に勤しみ、在宅医療・在宅看取りにも力を尽くしている。
特に、本書では、「「ハグ」が起こす小さな奇跡」(第三章)を起こそうと皆でハグを実践して、愛情ホルモン・オキシトニンを分泌促進して絆を深めようとする。勿論、マナーは必要で、第三者のいる所で、相手の意思を確認して行う、ハラスメントにならない注意が必要である。しかし、その「奇跡」で皆が笑顔になる重要性を述べる。無償で与え合える、例えば疲れた者にとっては休養となり、元気な人にとっては光明ともなる、双方向のコミュニケーションが生じてくるようになる。そして「ハグ」の概念とは、人は泣き叫んでこの世に生まれ出て来るが、毎日その人のいのちを輝かせるものを探して、正にこの「ハグ」の実践により、「死に顔ピース」の笑顔に生まれ変わって彼岸に逝けるとする。ご購読をお勧めする。
もっとも、乳児期頃から抱っこしてやれた孫は今なお抱っこしてやれるが、その機会がなかった孫は頭を撫ぜるくらいである。まして自院では、恥ずかしながらハグの実践などはまだまだである。また、当今は、新型コロナウイルス蔓延のさ中、密集・密閉は回避できても、密着回避は課題となり、どうしてられるかとも気にかかる。
氏のこの実践過程は、ドキュメンタリー映画「結びの島」(2020年溝渕雅幸監督作品)でも紹介されている。上映の機会があればご覧いただきたい。
(宇治久世・宇田憲司)
『奇跡が起きる「仁」の医療 笑顔で最期を迎える生き方』
岡原仁志著
幻冬舎ルネッサンス新社
2014月8月25日発行
778円+税