地域の医療者が奮闘しているその実態を聞きたいと開始した「地域医療をきく! 新型コロナ編」。今回はコロナ陽性患者への往診などを経験した医療法人敬愛会まつざき内科クリニック(西京)の松崎恒一医師に話を聞いた。また、訪問介護を行う介護職員対象に「ガウン等の着脱方法講習会」を開催した京都市西京区在宅医療・介護連携支援センターのセンター長である塚本医院の塚本忠司医師(西京)、コーディネーターの小泉こずえ氏、鎌田松代氏に、開催のきっかけなどの話を聞いた。
高齢患者陽性も病状気になり訪問診療
――患者さんの背景について
陽性となったIさんは89歳の男性の方で独居。お子さんは関東にお住まい。もともと他の病院の患者さんで当院にも通院していた。腎臓の状態がかなり悪く、最近のデータではeGFR11、クレアチニン4㎎/dL、カリウム7mEq/Lという数値だった。本来であれば透析の適応だが、肺がんが見つかったこと、本人が透析を拒否したこと、透析のための通院も独居のため無理だということで透析は行わず、病院からの紹介で当院が体調の管理を行っている状況だった。
1月18日に訪問看護ステーション「ひなた」から、Iさんがここ3日ほど食事を摂れていないと連絡があった。前週にIさんが通うデイサービスの施設で新型コロナが発生し、Iさんも検査は受けたがその時点では陰性だった。しかし、その後も普段と体調が違うとの報告を受け、往診に向かった。
一度、陰性が出たとのことだったが、コロナの可能性もあると考え、唾液のPCR検査をIさん宅で実施。21日に陽性が判明した。
――防護はどうされましたか
フルPPEで伺った。看護師は玄関で待ってもらい、私だけ室内に入らせてもらった。近所の方たちや道行く人たちの目もあるので、玄関の内側に入らせてもらい土間で着替えをして診察・検査を行った。
――その後の経過は
21日に陽性が判明した後、「ひなた」に連絡。もちろん、保健所にもすぐさま連絡を入れており、すぐ入院になると思っていたが、Iさんは自宅待機に。病床の逼迫がピークに達していて、確保することができなかったのだろう。
以後は保健所の管轄になると考えていたが、容態が気になり、22日と25日に訪問診療を行った。万が一の時は救急搬送もあり得ると思いながらの訪問だった。
本当に頑張ってくれていたのは「ひなた」で、陽性判明以降、毎日Iさんの容態を確認してくれていた。
――患者さんの容態は
22日の訪問時は18日とほぼ変わらず、25日に採血を行い、腎機能の数値を翌26日に「ひなた」に報告。コロナ自体は落ち着きつつあるが、脱水症状による腎機能の増悪が顕著で、このまま訪問診療、訪問看護を続けた場合に自宅で亡くなる可能性が高いと説明。「ひなた」から保健所へ連絡を入れるよう依頼したが、保健所につながらなかった。保健所もかなり混乱していたのだろう。保健所から病院への搬送は難しいと判断。我々から病院への入院手配をと考えていたが、腎機能が少し持ち直したこともあって、幸いIさんは回復。2月26日にIさん宅を訪問したら、ものすごく元気になっておられた。
医師の使命感としては訪問診療をしなければならないと思ったが、実際のところ法的な問題がクリアできているのかが心配だった。また、医院スタッフにコロナが感染。府内感染者数が最も多い時だったので、この訪問診療による感染かどうかは定かではないが、スタッフは宿泊療養施設に2週間滞在となった。
――協会は1月29日にこの事例を伺って、京都府とやりとりをして公費で請求することを確認し、2月5日に会員に広報しました。府が訪問診療チームを立ち上げると発表したのもこの日です。26日には厚労省が自宅・宿泊療養者への緊急往診関連の報酬算定可能と通知しました。先生をはじめ、往診や訪問診療が必要だと訴えた医師の功績が大きいと思います。その他、国や自治体への要望はありますか。
Iさんの場合、陽性が判明したことで介護の提供も止まってしまった。この穴を埋めたのは「ひなた」で、入浴介助まで行ったと聞いている。ヘルパーも他の利用者を抱えており、コロナ陽性患者への対応は困難だ。Iさんは幸いにも回復に向かったが、やはり入院は必要だったと思う。
当時の病床逼迫の状況や保健所の混乱ぶりを考えるとどうしようもなかっただろうと思うが、今後の教訓としてこういった状態に陥らないよう体制を整えてほしい。