協会は12月26日、近畿大学病院安全管理部教授で医学部血液・膠原病内科教授の辰巳陽一氏、あやめ法律事務所弁護士の福山勝紀氏を講師に迎え、医療安全講習会「コロナ禍のいま! 院内感染対策と損害賠償責任」を開催。今回はウェブ配信のみの開催とし、36人が参加した。
五つのコロナ対策
周知・実行を
まず、辰巳氏が臨床現場で取り組むべき新型コロナウイルス感染症の院内感染対策について、感染対策の周知には具体的な方法とその理由を伝えることが必要であり、「正しく知って、正しく恐れる」ことが重要だと述べた。
新型コロナは、発症の1、2日前から感染性期間(他人に感染させることができる期間)のため、来院者の症状(発熱)を検出するだけでは不十分であり、無症状感染と新型コロナ以外の患者の存在の可能性を考慮すべきであると説明した。また、新型コロナの対策は①三つの密を避ける②不要不急の外出を避ける③手洗い、うがい、消毒を徹底する④マスクを着用する⑤定期的に換気する―これらの周知と実行に尽きるとした。そのうちマスクについては、ウレタンマスクや布マスクに比べ不織布マスクが最も出入する飛沫量が少ないとのデータから、不織布マスクの有効性を示した。また更衣室や食事中の注意点等について解説を行った。
医療施設職員が新型コロナ陽性患者と接触した際には、職員が濃厚接触者と判断され就業制限を受けないように、適切に個人防護具を使用し低リスクに抑えることが重要とし、患者を介助(接触)する際の具体的な対策を説明。また入院後に、症状から新型コロナ感染が疑われる患者や濃厚接触者と判明した患者、あるいはその同室者の病棟における運用フローを例示し、それらの患者に濃厚接触した職員の対応についても言及した。さらに、新型コロナ患者の入院を見越した入院フローとして、10日以上入院している患者と入院直後の患者の病室を分けることで、院内感染リスクを低下させるといったゾーニングの考え方も併せて紹介した。
最後に、新型コロナ対策は前述した五つの対策の周知・実行と、職員が体調不良や感染したことを伝えても責められることのない職場環境の整備が極めて重要だと締めくくった。
院内感染の病院責任
コロナは可能性低い
続いて、院内感染に伴う賠償責任について福山氏は、院内感染では、空気中や表皮には常在菌があり結果予見可能性は想定されやすいため、結果回避可能性を否定できるかがポイントだと解説。次に、院内感染によってMRSAに感染したとされる裁判例では、医療機関が院内感染対策委員会の設置や院内感染防止マニュアルの作成および周知等を行っており、衛生管理体制に不備はないと認められたものの、感染後に速やかな起炎菌の特定と治療の開始を怠ったとして医療機関側の過失を問うている。この点からも、賠償責任を免れるためには、事前の対策として委員会の設置やマニュアルの作成および周知が重要であるとともに、感染発覚後には速やかに抗生剤等の治療を開始すべきとした。
最後に、新型コロナへの院内感染対策としては、感染経路の特定が非常に困難なうえ、現状では有効な対策が確立しておらず、院内感染が生じたからと言って病院側が責任を負う可能性は非常に低い。しかし、過去の裁判例を鑑みると、院内で感染者が出た場合には早急に検査等の対応をすべきと締めくくった。
当講習会の模様は期間限定で協会ホームページに一部掲載している。ぜひご覧いただき、院内感染対策や医療安全研修にご活用いただきたい。