宇田 憲司(宇治久世)
「昭和」を懐かしく振り返る一冊
本書は、スケッチエッセイスト大森俊次画伯の第3冊目の画文集である。第1作『スケッチブックの向こうに 僕の旅エッセイ』(14年1月つむぎ出版)、第2作『中島貞夫監督と歩く 京都シネマスケッチ紀行』(18年9月かもがわ出版)に次ぐ矢継ぎ早の発刊で、会員には既刊本につき本紙(2998号、3041号)でも報知したが、早々に再度の良書紹介の機会に恵まれ幸いである。
本書では、著者が生まれ育った昭和20年代~30年代を振り返りながら、思い出の詰まった懐かしい京都の情景を水彩画スケッチに描き、よくぞこれ程にも多々正確に記憶されているものと感心させられるが、特に今はなき祖母と過ごした数々の物語が郷愁の思い込め、いながらにして目の前に見える如くに綴られている。
第1章「郷愁の風景の中で」、第2章「昭和なつかし話」、第3章「ばあちゃんと歩いた道」の3部で構成される。第1章では、挙示された50項目のテーマ各々に関連して、半頁分1号大に京都の町並みや郊外の風景などが懐かしげに描かれており、最早目にできなくなるやもしれぬ情景もあり得て、貴重な記録となるものもあろう。また、それらの4分の1大画描では、静物や追加の景色などを補充的に同数に描いて主題の表わすさまざまな思いを、最早ここにはない過ぎ去ったものを描くことにより、より説得的に述べているかに見える。ただし、50項目で「真如堂への道」を描いた後に同様の画描はなく、探してみると裏表紙からの折り込み内にまで飛びのいており、これらを描いたのは自分だぞと方寸の世界からこの世を描き続ける著者の意気込みが自画像にされているので、要注意である。
著者の意気込みには、例えばさらに、丹後の海景を描きながらも、いまだ人生の完成が訪れてはいない自己にとってそれは一体何であり得ただろうかと思い惑える著者の心情露わにして、同世代の者ならば同様に生じて来よう悔恨をも想起させられて心打たれるものがある。多言は無用である。ご購入ご一読をお勧めする。
なお本書巻頭には、協会元理事の川浪進先生の妻で小説集『兄は光琳』(1995年)などや随筆集『歌舞伎よりどりみどり』(2009年・絵 川浪進)を執筆した、我らが同年代は小説家・川浪春香氏の「庭にひともと棗なつめの木」との推奨文があり、「いま生きている先の路地を曲がったところに続いています」「いとおしむべきものが…ある」とのことであり、こちらも味読していただける。
また今回は、京都シネマ関連テーマについて一切沈黙されているが、20年5月18日より京都新聞文化欄に、「中島貞夫 映画人生60年 心に残る人と作品」との連載記事が全17回の予定であり、新たな発刊が期待される。
大森俊次著
『京都スケッチ帖 郷愁の風景のなかで』
㈱かもがわ出版 20年6月
1,800円+税