ICRP(国際放射線防護委員会)は、福島原発事故を踏まえ、「大規模核施設事故における人と環境の放射線防護」勧告案を6月に公表した。
これはIAEA(国際原子力機関)が具体化し、それを根拠に国の放射線審議会などが法律や緊急時対応などを決めていく重要な勧告であるが、大きな問題をはらんでいる。
まずICRPが放射線防護対策のゴールデンスタンダードというLSS(原爆被爆者追跡調査)は、原爆による被ばく線量がゼロでない人々を基準にした(死亡リスクが低く見積もられた)、被ばく後5年経過してから調査が始まった(相対的に被ばくに耐性のある強い人の調査になった)、がんをがんでないとした誤診が25%あった(がん死のリスクが低く見積もられた)などの問題がある。にもかかわらずそれを根拠に、100mSv以下の被ばくでは発がんリスクは他の要因に隠れるほど小さいため、がんになる危険はほぼないと政府・東電は言い続けている。しかし、被ばく線量とがん診断の正確さが格段に高い医療被ばくと原発など放射線施設労働者のこの10年間の調査から、カナダ、イギリス、オーストラリア、イタリア、フィンランド、中国など背景が異なる国々で、「大人で10m
Sv、子どもで1mSvの被ばくでがんリスクが有意に増加する」とした研究が発表され続けている。
そして今回の勧告案の最大の問題は、一般市民(子どもも含まれる)の被ばく許容線量を事故発生後の緊急被ばく状況では100m
Sv、復興期(損壊核施設がアンダーコントロールとなったと政府が決定した時期)では年10mSvまで許容されるとしたことである。
この勧告はよしんば科学的な装いを纏っていたとしても、予防原則の観点から見ても、将来を担うべき子どもも含めた市民への冒涜ではないだろうか。そもそもリスク評価(この場合の線量評価)は我々にとって必要不可欠なものを対象にリスク・ベネフィットを検討するものだが、原発はすでにその対象から外れ、不要、いや市民にとって大きな脅威になっていると言わざるを得ないのではないだろうか。
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ICRP=International Commission on Radiological Protection
IAEA=International Atomic Energy Agency
LSS=Life Span Study
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