鈍考急考 3 多数の横暴を食い止める制度が要る 原 昌平 (ジャーナリスト)  PDF

 次から次へとウソをつく、文書やデータを隠す、捨てる、説明を拒む、開き直る。
 安倍首相の「桜を見る会」をめぐる疑惑は、公的行事と税金の私物化という意味で重大である。地元有権者を含む支援者の歓心を買うために飲食接待したなら、公職選挙法に触れるだけでなく、自己の利益のために余分な支出をさせたわけで、首相による国家に対する背任罪ではないか。
 より深刻なのは国会がコケにされていることだ。議員が資料要求したとたんに招待者名簿が廃棄される。首相はまともに答弁せずに逃げまくり、与党は予算委員会を開こうとしない。議員の質問権、国政調査権がないがしろにされ、民主主義だけでなく、法治さえ掘り崩されつつある。
 ひきょうな対応がまかり通る大きな原因は、国会運営が多数決で行われるからではないか。必ずしも議院内閣制だけの話ではなく、自治体の首長と議会も緊張感を欠くことが多い。米国でも与党議員の多くは大統領をかばう。
 ヒトラー独裁の経緯が示すように、多数決民主主義の欠点は、多数派の横暴を許しかねない点にある。したがって多数決よりも大切なのは、少数派の権利の保障だ。
 法律、予算などは最終的に多数決で決めるとしても、少数派の審議権、行政チェック権が確保されないと、議会制民主主義は形骸化する。
 たとえば委員会の4分の1以上が要求すれば証人喚問・資料提出・立入調査を可能にし、応じないときは刑罰を加えるといった具体的な制度が必要だ。多数派が不当な議会運営をしたとき、立法に違憲の疑いがあるときは、最高裁の判断を求められる仕組みも要るのではないか。
 三権分立を実質化するためには、司法の改革も欠かせない。少数者の人権と正義を守るべき裁判所は、権力者寄りの判決が多い。検察も政権に大甘になっている。警察は昔から自民党の味方だ。
 独立性を確保するカギは人事にある。たとえば最高裁判事や検事長以上の検察幹部は、法曹有資格者による選挙で定数の2倍の候補者を選び、国民審査で上位を選出する。警察はキャリア支配をなくし、都道府県警本部長を住民の投票で選出する。公安委員のうち1人は弁護士会で選出する。警察や消防にも労働組合の結成を認める。
 国民が直接、国政をチェックできる手段もほしい。地方自治体には住民監査請求、住民訴訟の制度があるが、国レベルには存在しない。不当な財政支出に対する会計検査院への検査請求、国民代表訴訟の仕組みを整備しよう。
 重要な政策決定は、国会議員の一定数の発議や国民の一定数の署名をもとに国民投票にかける制度も作りたい。
 今後、野党が国会で多数を得たら、権力と多数派を縛る法律を積極的に制定してもらいたい。独裁を狙う勢力は今後も出てくるからだ。
 以上に例示した中には憲法改正が必要な内容も少なくない。立憲主義、民主主義、人権保障を強める方向の憲法改正論議はあってよいと筆者は考える。「世の中はこんなものだ」という感覚から日本の人々が抜け出すためにも。

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