原 昌平 (ジャーナリスト)
公立・公的病院の使命を見つめ直す
なぜ公立・公的病院だけをやり玉にあげるのか。もうかる分野は民間に譲れ、もうからない分野や過疎地の医療は切り捨てろということか。
厚生労働省は、再編や統合を議論すべき医療機関として、全国424か所の公立・公的病院の具体名を9月26日に公表した。
同省は「地域医療構想に関するワーキンググループ」に提出した一覧表で、急性期病床を持つ公立・公的病院等1455か所(医師会病院など一部民間を含む)の診療実績や周囲の状況を分析した。
一覧表では、①がん、心血管疾患、脳卒中、救急、小児、周産期、災害、へき地、研修派遣の9分野ごとに、それぞれ実績が特に少ない②がん、心血管疾患、脳卒中、救急、小児、周産期の6分野ごとに、車で20分以内に類似した機能を持つ医療機関がある――という基準を設定し、あてはまる項目数をカウントした。
いわば不要度を示す指標をこしらえて、その数が多い病院に「再検証要請対象」のマークを付けたわけである。
この方法では、過疎地の小さな病院や、特定分野の専門病院は、不要度を示す項目数が必然的に多くなる。
医療提供体制の見直しを進めるとしても、地域事情を考慮せずに大ざっぱな基準を機械的に適用したやり方に、自治体や地域医療の関係者が反発したのは当然だろう。
ただし問題なのは、厚労省の手法の乱暴さだけではない。むしろ根幹は、地域医療構想の基本的な考え方にある。
このワーキンググループは「公立・公的医療機関等においては地域の民間医療機関では担うことのできない医療機能に重点化する」という方針を打ち出している。
これは明らかな民間優先論、民間活力論であり、新自由主義的な発想である。公立・公的病院の大幅な削減や民間移譲にもつながる。
不採算部門は公立病院が担えという議論は昔からある。一方で公立病院には民間並みに採算性が要求されてきた。政策医療や赤字の穴埋めに公費を用いると、民間の医業経営者は、税金の投入される公立病院と同じ市場で競争するのは不公平だと主張した。
とても両立不可能な話で、自分たちの商売を優先する民間のエゴを筆者は感じる。
公立・公的病院の存在意義や使命を、きちんと見つめ直すことが肝心ではないか。
まず、どこまで責任を持つか。地域医療に貢献している民間病院は多いが、経営の状況や方針によって、その地域や分野から撤退するリスクがある。倒産もありうる。
公立・公的は営利を優先しない点で安心感をもたらす。
また病院は、ある程度以上の分野・機能が一体的に存在してこそ成り立つ。部分的に切り離したら、運営や協力・連携に不備が生じ、患者の診療も医療従事者の教育訓練もまともにできなくなる。
民間病院も純粋な民間事業ではなく、医療保険など公的財源から収入を得ている。医療を民間に任せたほうがよいとする理由はどこにあるのか。医療提供体制の再編を言うなら、明らかに過剰な精神病床をはじめ、民間病院を含めて検討するのが当然だろう。