医療制度改革において、「かかりつけ医」登録制がにわかに争点へ浮上してきた。古くは1956年、旧厚生省が専門医制の一環として「家庭医」構想導入を狙い、1987年には家庭医制度創設が謳われ、その都度、医療界が押し返してきた制度が再び姿を現した。それもあろうことか野党勢力からである。立憲民主党・国民民主党・社会保障を立て直す国民会議と無所属議員らで構成する「『医療の民主化』改革で、次世代に責任ある政治を実現する議員連盟(会長・野田佳彦)」が、「予防中心の医療の実現のための医療制度改革 政策大綱(たたき台)」をまとめ、「かかりつけ医」制度の創設を打ち出したのである。
その構想は、一定の研修を修了した「かかりつけ医」(診療科は問わない)を、患者1人につき1人の形で登録する(地域医療の状況に応じてチームでの対応も想定)。フリーアクセスは維持するが「かかりつけ医」以外の医療機関を直接受診する場合には一定額の負担を求める。「かかりつけ医」は、患者に対する医療提供の司令塔として、プライマリ・ケアを担い、「二次医療機関」の受診の必要性を判断、患者の医療情報を一元把握し、ターミナルケアを担う。「かかりつけ医」への受診は、診療内容により無料、包括報酬制または出来高払いとする、というものである。この際、包括報酬の金額や対象となる行為については、財政への影響を見極めた上で設定する。また、診療内容等(予防接種歴、食事・運動の状況等も含む)の医療関連情報について、全ての医療機関が共有できるようにすること。そして「予防管理」を医療保険の対象とし、それが重点的に行われるよう、十分な水準の診療報酬とするとされる。
国と野党の方向性が一致?
これに先立つ6月25日、日本経済新聞が「かかりつけ医」登録制を厚生労働省が検討していると報道。この際、協会は「かかりつけ医」の登録制は、医療費総額抑制と同時に人頭登録払いを実現し、患者数に見合った医師数(開業医数)を割り出して管理するための仕組みづくりであり、断じて容認できないとする理事会声明を発出。同日、根本匠厚労大臣(当時)が報道について「事実ではない」と否定した経緯がある。
だが、経済財政諮問会議の「新経済・財政再生計画工程表2018」には、かかりつけ医の普及とセットで「外来受診時等の定額負担の導入を検討」を「骨太2020」にて方針化すると明記されており、符合している。官邸も含め、国はかかりつけ医登録制の導入へ動いているとみるべきであろう。
このタイミングで、野党が国方針と一致するような政策をあえて持ち出してきたことは、医療界にとって極めて深刻な事態である。
「予防」必要だが費用削減は幻想
かかりつけ医登録制は、本質的に「いつでもどこでも誰でも保険証一枚で必要な医療を必要なだけ保険で提供する」という国民皆保険体制の理念と相容れない。患者のフリーアクセス制限、医師のプロフェッショナルフリーダムに基づく診察・治療の制限、そして患者登録によって導き出される「必要医師数」とそれに基づく自由開業制規制も危惧される。だからこそ医療界は一致して、繰り返しその企みを阻止してきた。複数の野党が国方針に同調してしまえば、政治の場において我々の声を代弁する場が大きく縮小するだろう。
また、「予防医療」に対する過度な期待に対しても、警戒が必要である。安倍首相を座長に9月、全世代型社会保障検討会議が立ち上げられたが、「予防」によって医療・社会保障にかかる給付増加に歯止めをかけるという方向も、議連の提案と符合しているようだ。予防は必要だが、それによる費用削減は幻想だと指摘する識者は多い。まして、それが医師の診療報酬のアウトカム評価に用いられたり、患者の健康自己責任論の増長に用いられたりする恐れもある。
協会は、医師の団体として今回の議連の動きを憂慮。議員連盟に参加する議員らに対し、「かかりつけ医登録制」の問題点を説明し、理解を得る必要がある。そのために議員懇談等を含め、さまざまな方策を行っていきたい。