2016年7月26日、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害され、27人が重軽傷を負った。逮捕された被告は「意思疎通できない者を安楽死させる」との「思想」を抱き、凶行に至ったとされた。日本社会の底流にある優生思想が滲み出たかのような事件に多くの人たちが震撼した。
それから3年。実行委員会主催による講演会が7月26日、ひと・まち・交流館で開催され、約230人が参加した。協会は後援に名を連ね、宣伝協力を行った。実行委員会は、障害のある人たち、研究者らで構成されており、事件以来、持続的に講演会を積み重ねている。
講演会では参加者全員による黙とう、実行委員長である鈴木勉氏(佛教大学教授)があいさつ。事件の日が近づくとナイフを突き立てられるような思いになるという障害のある子の親がいることにふれた上で、イラクのシャニダール洞窟で発見されたネアンデルタール人の遺骨の中に、障害のある人のものが発見された。その遺骨には他の遺骨と同じように、花が手向けられていたと紹介。そのことは3万年から6万年もの昔に、共同体の中で障害のある人たちがともに生きていたことを示唆しているとした。だが、その後人類が歩んだのは能力を持たない者を排除し、差別する社会への道だった。それを打破せんと立ち上がったのがノーマライゼーションの思想であったと指摘した。
続いて、元相模原市職員であり、田園調布学園大学教授の隅河内司氏が「『相模原殺傷事件』について思うこと」をテーマに講演した。隅河内氏はスライドを使って相模原市と市の障害福祉政策の歩み、特徴を紹介。事件後、施設では自分の慣れた場所でなくては生活できない入所者が、事件現場である棟で1カ月以上暮らすことを余儀なくされたこと等も明らかにした。そして、どんなに障害があったとしても、他の人に影響を与えて人は生きている。個人の人権を守り、誰も排除しない社会をつくることは私たちの使命だと訴えた。
さらに、発言者として、作業療法士、精神科病院ケースワーカーが日常の実践から考えを述べた。ミュージシャンのYOUさんもギターを抱えて登場。YOUさんは口唇口蓋裂の障害がありながら、音楽の道を進み、シンガーソングライターとして活躍する若者である。YOUさんの歌う「鼻曲がりと言われた少年の歌」に客席は胸を打たれた。
後半は、映画「夜明け前」が上映された。映画は1910年から1916年にかけ、監置室365、監置された精神病患者361人を実態調査した「精神病者私宅監置ノ実況及ビ統計的観察」(1918年、大正7)をまとめた呉秀三氏の歩みを追ったドキュメンタリー。あらためて、呉氏のあまりに有名な言葉、「我が国十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸の外に、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」に立ち戻り、日本社会、政治、そして医療や福祉制度の在り方を考えさせられる時間となった。
最後に、シンポジウム実行委員会の細田一憲事務局長があいさつし、今もこの国を覆う「排斥」の空気に立ち向かうことを語り、会を締めくくった。
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