理事提言 かかりつけ医登録制を許さない 令和の保険医運動を 政策部会 吉中丈志  PDF

 日本経済新聞朝刊(6月25日)の1面に「かかりつけ医 定額制に」という見出しが躍り、患者が自分のかかりつけ医を登録する制度の検討を厚生労働省が始めたという記事が掲載された。2021年度の法改正が視野に入っている。
 厚生労働省はかかりつけ医機能を重視するとして2014年に地域包括診療料を新設して1500点余の包括点数を付けた。18年の改定では施設基準の緩和、「かかりつけ医機能を有する医療機関を評価」した初診時の機能強化加算を新設した。この加算の届出は、増加傾向である。
 これを一気に進めるのが報道の内容で、政府がかかりつけ医を定めて患者が登録する仕組みである。①患者がかかりつけ医を受診する場合には定額とする②かかりつけ医以外を受診する場合には自己負担を上乗せする③大病院へはかかりつけ医が紹介する流れを強める―が基本だ(以下、かかりつけ医登録制)。患者には、登録を希望しない場合には従前と同様出来高制を認める、医療機関には、ヨーロッパのような人頭割と出来高払いを組み合わせたものを例示する、などによって懐柔する。医師偏在是正を名目にした開業規制と同時進行で、かかりつけ医登録制が進められようとしているのである。フリーアクセスと出来高払い制を否定し、わが国の医療制度を根底から覆すものであると考える。
 根本厚生労働大臣はこうした検討は始めていないと否定した。しかし一方で、新経済・財政再生計画工程表2018(昨年12月)に組み込まれているとして経済財政諮問会議の方針であること認めた。かかりつけ医登録制が社会保障費削減のためであることを明確に示すものだ。参議院選挙直前であるため骨太の方針2019(6月21日閣議決定)では社会保障制度への切り込みは来年に先送りされたが、代わって財務省の財政制度等審議会(審議会長=榊原定征元経団連会長)が「令和時代の財政の在り方に関する建議」(6月19日)を出して政府に発破をかけている。わが国の医療・介護制度の特徴である、国民皆保険、フリーアクセス、自由開業制、出来高払い(同資料Ⅱ―1―3)は医療・介護費の増大を招くので、医療提供体制にかかわるフリーアクセス、自由開業制、出来高払いを取り除けというのである。かかりつけ医登録制では、かかりつけ医以外または大病院で受診する場合には診療報酬から追加自己負担分を差し引いた額しか保険給付しないという徹底ぶりだ(図)。
 フリーアクセス、自由開業制、出来高払いを欠けば国民皆保険は空洞化する。保険で良い医療と良い医業を目指す保険医運動はこれを許してはならない。

図 紹介状なく受診する際の自己負担の在り方のイメージ

改革案:かかりつけ医以外または大病院で受診する場合に、診療報酬の中で追加の患者負担
かかりつけ医の方が患者負担が小さくなるとともに病院の追加収入も生じないことからより効率的なインセンティブを発揮(国民医療費も増加せず)
かかりつけ医
負担
かかりつけ医以外
大病院
※負担額は「かかりつけ医以外」と「大病院」でそれぞれ設定
かかりつけ機能を評価するためには包括払い形式が望ましい

保険財政負担軽減
患者負担増

患者負担
保険給付

診療報酬

患者負担

保険給付

診療報酬

負担
医療機関の収入
負担
医療機関の収入

(令和時代の財政の在り方に関する建議 資料Ⅱ―1―22)

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