賠償金の支払いは
必ず示談書を交わしてから
(70歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
身長156㎝、体重28・9㎏の患者。慢性呼吸不全、胃切除術後でA医療機関からB医療機関を経由して、当該医療機関に入院した。シャワー浴のため、ベッドから車椅子に乗り、浴室内でシャワー浴用の椅子に移動する際に、患者の体重が両足にかかり、左腰部と右足に痛みを訴えたため、シャワー浴を中止した。なお、対応していたのは看護師1人であった。レントゲンを撮ったところ、左大腿骨内顆骨折と診断された。
患者側は、装具費用や医療費について支払いを拒んだ。
医療機関側としては、過去3年以上独歩不能の患者に対して、看護師1人のみでシャワー浴介助を行うのは、安全面から不適切であったとして管理ミスならびに注意義務違反を認めた。ただし、装具費用については免除ではなく、保留とした。
紛争発生から解決まで約6カ月間要した。
〈問題点〉
調査の結果、医師がカルテに入浴、シャワーともに禁止する旨の指示を記載していたことが分かった。したがってシャワー浴を許可したことは、医療機関の連絡ミスとの判断となった。なお、仮にシャワー浴が禁止でなかったとしても、シャワー浴を急ぐ必要がなかったので、看護体制の十分取れる時間を見て、2人態勢で無理なくできる時間帯に施行しても良かったのではないか。
なお、示談の際に、患者側が印鑑持参を失念したが、医療機関は賠償金を支払い、後日、患者側に示談書に印を押して郵送するように依頼した。しかし、患者側はすぐに示談書を送らずに、追加で賠償金を要求する姿勢を見せた。示談の手続きについても問題のあったケースである。示談書への署名と押印を得るまでに賠償金を支払うと、このような問題も生じ得ることがある。
〈結果〉
医療機関側が全面的に過誤を認めて示談した。