ガイドラインと判決の関係も解説
まず、勝見氏が「医師からみた注射事故」をテーマに解説。勝見氏は、以前は採血時の神経損傷が問題となることはほとんどなかったとし、痛みに重きをおいた複合限局性疼痛症候群(以下、CRPS)という病名が提唱されたことにより、採血時の神経損傷が医事紛争へと拡大した原因の一つではないかと指摘。
次に、実際に採血を行う手順として、日本臨床検査標準協議会の「標準採血法ガイドライン」を参考に「適切な血管の選択」や「刺入角度」等について説明。なお、ガイドラインはあくまでも参考とし、最終的には医療者が最善と考えた手技で行うことを妨げるものではないとも付け加えた。さらに、刺入時に患者が痛みを訴えた時の対応や抜針後のしびれ・疼痛が続く場合、しびれや疼痛の症状があったとしても、約3分の1が3日以内に、ほとんどが3~6カ月以内に消失することを患者に説明し、安心させることが重要だと指摘した。
仮に、しびれや疼痛が遷延した場合には、神経内科などの専門医を紹介し、決して安易に「正中神経損傷」や「CRPS」と診断しないように注意を促し、仮に一般診療医が患者から診断書を求められた際には、「採血後疼痛」や「採血後痺れ」などの症状名だけを記載することがポイントだと説明した。対応を誤ると、心因性反応などが絡まり医事紛争へと発展してしまうので注意が必要だとされた。
協会は4月25日、十条武田リハビリテーション病院院長の勝見泰和氏と弁護士の福山勝紀氏を講師に迎え、「ひと刺しで神経損傷?~本当に正中神経損傷ですか? CRPSですか?」をテーマに医療安全講習会を開催。出席者は60人となった。
続いて「ガイドラインと判決の関係」をテーマに福山弁護士が解説。福山氏は、まず日本臨床検査標準協議会の標準採血法ガイドラインの穿刺部位の選定や穿刺方法等を改めて確認した上で、裁判所は診療に関するガイドラインを非常に重要視しており、ガイドラインに反した医療行為は基本的には過失と判断するので注意が必要だと指摘。その上で具体的な判例をもとにポイントを解説した。
次に、カルテおよび診断書の記載上の注意点を説明。カルテ記載では、原則としてガイドライン上で避けるべきと指摘している箇所に穿刺せざるを得なくなった場合には、特に神経損傷を避けるためにどのような手段を用いたかを記載しておく方が望ましい。また、何度も穿刺せざるを得ない状況の場合には、少なくとも2回目以降どのように穿刺したのか、その際に患者から痛みの訴えがなかったかどうかについて、できる限り詳細に記載しておくことが重要であると説明。また診断書の記載については、裁判官にとって正中神経が損傷されたかどうかは極めて重要な事実となるので、どの神経が損傷されたかが不明確な場合には、安易に正中神経損傷と記載することは避けて慎重に対応することが重要だと締めくくった。
講演内容は講演録にまとめ全会員に送付する予定である。