新たな環境汚染物質
PFOAとPFOSとは?
多くの難分解性物質は、近年POPs条約に掲載されることで、化学工業会に圧力となり製造から撤退する事態を招いてきた。前回で触れたように、PFOA(Perfluorooctanoic acid)とPFOS(Perfluorooctanesulfonic acid)はここ10年でPOPsに掲載されてきた、いわば新たなPOPsである。この両物質とも、環境中で非常に安定な性質を持っている。その性質ゆえに、消火剤や瓦などの表面加工コーティング物質として利用されてきた。
すなわち、PFOSとPFOAは、極めて難分解性である。では、この安定性はどこから来ているだろうか? その理由は、C-F結合の強さにある。ハロゲン化合物と炭素の結合の強さは、C-F<C-Cl<C-Br<C-Iである。C-F共有結合のエネルギーは441KJ/molである。これらハロゲン化合物を生成するためには、自然界では、ハロパーオキシデースがハロゲン活性化しC-HのHを置き換える。この際、ハロパーオキシデースは、過酸化水素のエネルギーを利用し、当該のハロゲンを活性化させ炭素をハロゲン化する。過酸化水素が水と酸素に分解する際に出されるエネルギーは、335KJ/molであり、C-Fの共有結合のエネルギーより小さい。そのため、自然界でC-F結合は形成されにくく、また生物による分解も受けにくい。PFOAおよびPFOSの構造を見てもらいたい(図)。C-Fが安定なうえに、PFOAもPFOSもともにC-Fでほぼ囲われる状況である。あたかもFの鎧を身に着けている状況であり、このため内部の炭素骨格は、非常に安定になる。この一方Clで囲われた、SCCPs(Short-Chain Chlorinated
paraffins)も、安定ではあるが、C-Cl結合エネルギーは、過酸化水素の結合エネルギーより小さく、自然界でも分解される。勿論、紫外線などでもC-Cl結合は切れる。
天の声は言う「ホンマか? 海産の天然物の種類の多様性もそうならなあかんわな?」。当然の疑問。現在までハロゲンを含む海洋性の約3500種類の天然化合物が知られている。海洋中の最も多いハロゲンはFであり、次いでCl、Br、Iの順番だが、化合物数は、圧倒的にClを含むものが多い。Fを含むものとして知られているのは、海底火山由来のHFであり、生物由来のものはごくわずかに海綿による有機フッ素化合物が知られているのみである。
このようにPFOAおよびPFOSとも、非常に生態系で安定であり、そのため環境への残留性が高いことから、POPs条約に掲載される直前に、日米の主要なメーカーは自主的に2015年までには生産の中止を決めた。