保険部会 植田良樹
今更ですが、キャッシュレス化を医療についても進めようという状況になっています。とりあえずクレジットカード支払い導入ということになるのですが、これには手数料というものがかかる。価格の中に含まれることになります。
一般の商取引であれば、全体の収支の中でカード手数料が問題になるようなら、価格に反映させていくことが可能なのですが、公定で価格柔軟性の一切ない保険医療窓口負担と、その手の手数料はきわめて相性が悪い。導入すれば一方的に損するものをインフラ事業が入れる理由はないのです。
カード導入による受診者利便性をはかることで集客しろというなら、それこそ保険医療は営利事業ではないということと整合性がつかないのであって、独自ポイント合戦と何が違うのでしょうか。
公的保険ではない医療についてカード決済をしていくなら、厚労省の通知のように医療機関自身が価格を決定できるわけであるから問題がありません。最近問題の、公的保険を持たない、旅行者を含む外国人についてなどは、カードで問題がない。手持ちがないにせよ、事前にデポジットをとっておくにせよ、あったほうが格段に便宜が良いし安全であるから、さっさとカード決済を普及させることは、望ましいとも言えます。
しかし、一医療機関において、公的保険は現金に限る、自費のみカード可能、などという使い分けはたぶんできません。その場で自費にしておいて、後で保険証を持ってくるという状況はいくらでも出てくるでしょう。
本年5月7日の参院厚生労働委員会(第6回) で、自由民主党議員の、医療機関での支払いキャッシュレス化に関しての質問に関し、吉田医政局長は「患者利便性に重要なので各関係団体と協議中。カード会社のポイントはかまわないが医療機関での独自ポイント付与は禁止」と答え、議員は「機器導入費用もどうするか議論を」というのですが、手数料については一切問題になりませんでした。
医療機関にしてみると、機器導入は他の医療機器同様設備投資として考えられるもので、どこまでも抵抗があるのは手数料の問題です。診れば診るほど医療機関からカード会社がお金をもっていく公的医療費をイメージして下さい。
これが、一般に公的医療でキャッシュレスの進まない主因ではないかと私は思っています。
ところで手数料負担にも例外があって、地方税については総務省から各都道府県への通知に基づき、支払者負担になっています。これをみれば負担の変更は、お得意の通知いっぽんで可能になるわけです。
ここで、「電子支払加算」とやらを導入しろというのはやめてほしい。手数料は支払額に応じて大きくなるのであるから一定の加算ではカバーできないし、使うほどお得になるのは保険制度の精神から逸脱している。加算にするなら、医療費の支払いについては手数料定額でなければいけないでしょう。
とまあ、公的医療の分野で今後のキャッシュレス化を本気で言うなら、手数料をなんとかしないとなかなか普及しないでしょう。