実態無視した医師確保策撤回を  PDF

医師偏在問題で府と懇談

 協会は4月26日、京都府に対し、要望書「国による医師偏在対策を理由とした開業規制について」を提出、懇談した。懇談には渡邉賢治副理事長、吉中丈志政策部会理事、小泉昭夫医療制度検討委員が出席。府からは保健福祉部医療課の真下信男担当課長、松本浩成担当課長、松尾治樹主幹兼係長、藤川いづみ主査が対応した。

府も手探りの状況

 協会は医師偏在対策における府への要望(下掲)を伝えるとともに、現在取り組んでいる開業規制に反対する会員署名への書き込みや、地区医師会との懇談会、コミュニケーション委員会などで寄せられている会員の声を紹介した。
 要望を受け京都府は、厚生労働省医政局長通知(「医療法及び医師法の一部を改正する法律の施行について」医政発0329第47号)による「医師確保計画策定ガイドライン」「外来医療提供体制に係るが医療提供体制のガイドライン」が発出されたものの、都道府県に対しては国から具体的な説明がなく、文面を読む範囲で暗中模索の状況にあるとコメント。京都府が医師多数三次医療圏にされるとの指摘は恐らくそのとおりであろうが、府としてはどのような状況にあっても医師確保・偏在対策に取り組んでいくとした。
 また府は、自由開業制をめぐってはガイドラインからどこまで読み取れるのか。その点は、国に対して考えを問うていきたい。公的病院の役割については、地域医療構想調整会議で公・民を交えて出席いただき、自分たちの地域に何が必要かを議論いただいており、これは重要なことである。財政的には地域医療構想達成のために活用する医療介護総合確保基金の財源をしっかり求めていきたい。医師偏在指標の計算式については今読み込んでいるところであり、不明な点は国に確認していきたいと述べた。

次々と打ち出される国の方針に危機感

 コメントを受けての意見交換で協会は、京都府には二つの医科大学があり、かねてから医師が多いとされてきた。日本専門医機構が専門医制度において地域だけでなく診療科別シーリングも導入する意向を示すなど、医師偏在是正をめぐる国政策の動向が、医師養成・医学教育へ甚大な影響を及ぼそうとしていると指摘した。その上で、現在、京都府立医科大学に設けられた7人の地域枠についても、何かしらの見直しを迫られる可能性を指摘した。
 さらに医師の働き方改革の推進に向け、府内でも医師の二交代制導入に踏み切る病院があるように、働き方改革は各病院の医師確保への強烈なインセンティブになっている。そうなれば国のいう「偏在」はさらに進んでしまう。都道府県が医師確保計画を策定するといっても、実際には医師の雇用は民間病院自身が決めているのであり、実現性に疑問がある。だが国の議論には「本気」が感じられ、今後どんな手を打ってくるかわからない。地域医療構想をめぐっても厚生労働省は公立病院縮減へ強烈な圧力をかけてきており、いずれ公立のみならず民間病院へも一層介入が強められる危険性を指摘した。
 さらに、偏在是正策を進めるにあたっての国のデータ開示は極めて不十分であり、当事者が検証不能な状況のまま、次々に新たな方針が打ち出されている事態の深刻さを府としても共有してほしいと求めた。
 また、開業規制をめぐって医院継承が焦点となる可能性にも言及。医院継承はあくまで新規開業であることから、外来医師多数区域では医院継承にもハードルが設けられるのでないかと指摘した。
 懇談を通じて、次々に「知事権限」強化の名の下に進められる国政策への対応に苦慮する京都府の状況が察せられた。今後、京都府は2020年に向け医師確保計画の策定を進めることになる。協会は引き続き現場医療者の意見を逐一行政に伝え、国政策に対峙する府の姿勢を後押ししていきたい。

医師偏在対策における京都府への要望
① 京都府は医師多数三次医療圏とされるものと考えられる。府内の医師少数区域への医師確保にあたって、他の三次医療圏からの確保を禁じるような、実態を無視した国の方針の撤回を求めていただきたい。
② 厚生労働省の「将来時点(2036年)における不足医師数」(2019年2月18日)は、京都府全体では上位推計で4006人、下位推計で1291人の医師過剰の見込みを示している。2016年の三師調査では京都府の医師数は8723人であり、厚労省の示す2036年の必要医師数は6807人と、2000人近い差がある。今後医療需要の伸びも見込まれるだけでなく、労働基準法上の時間外労働上限を一般職と同様に設定できない医師の勤務実態がある現状から、厚労省の推計が妥当とは考えられない。にもかかわらず、この推計が医学部における「地域枠」等の設定の根拠とされる等、将来的な医学部定員の減員の根拠とされかねないことを危惧する。国の示す医師偏在指標に基づく必要医師数が、真に京都府内の医療保障に必要な医師数である証拠はなく、医師養成数減のための政策と言わざるを得ない。京都府として地域実態を鑑みて国政策を検証し、医師養成数についても意見をあげていただきたい。
③ 厚生労働省の精査中データ(2019年3月22日)によると、京都府京都・乙訓医療圏、ならびに山城南医療圏が外来医師多数区域とされている。多数区域での開業に対し、府への届け出にあたり、初期救急・在宅医療・公衆衛生等を担う旨を誓約させるというような一方的な開業ハードルを設定する国の方針の撤回を求めていただきたい。
④ 総務省は従来から公立病院改革ガイドラインを通じ、公立医療機関の合理化・効率化を求めてきたが、現在、地域医療構想の目標達成にかかわり、厚生労働省が著しい縮小・再編・廃止を求める動きを強めている。医師確保の必要な地域における自治体立医療機関の役割は重大であり、国政策を改めるとともに、自治体による地域医療確保策に対する財政保障策強化を求めていただきたい。
⑤ 医療の不足する地域で医療を支えている医療機関ならびにこれから開業しようという医療機関に対しては、医療政策上の必要性を明確化し、施設維持やスタッフ確保などに対する公的助成を国と自治体の責任において行っていただきたい。
⑥ 医師偏在指標の計算式が統計学的な正当性を持っているのか、府として検討していただきたい。

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