医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律が5月15日に成立した。この法は、マイナンバーでの資格確認や電子カルテ標準化、高齢者の保健事業と介護予防の一体実施、そして審査の一元化など、これからの医療保険制度の展開に向けたインフラ整備のための法である。協会は16日、本法に対し副理事長談話「医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部改正法成立にあたって危惧すること」を表明。以下、全文を掲載する。
談 話
副理事長 渡邉 賢治
2019年5月15日、医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律案が可決・成立した。私たちは今次法改定に対し、強い危惧を抱いている。
一つめは、マイナンバーによるオンライン資格確認の導入が、社会保障個人会計システムへの一歩となることである。私たちは国家がマイナンバーを通じ、人々の健康・医療に関するすべての情報を把握し、金銭負担や自助「努力」に見合った個別のサービス供給を可能とする社会保障個人会計システムの導入は認められない。
二つめは、国が保有する医療・介護のビッグデータについて幅広い主体による利活用が可能であることを法律上明記、NDB・介護DBの連結利用も可能とし、DPCデータベースも同様に根拠規定を創設することである。データの第三者提供が新たな治療の開発や医療・介護サービスの展開へつながる期待もあるようだが、こうした動きが保険外サービスの開発、医療・福祉の産業化につながる危険性は無視できない。
三つめは、75歳以上の高齢者に対する保健事業と介護保険制度における地域支援事業を一体的に実施できるよう、後期高齢者医療広域連合と市町村の役割を整理し、市町村等が高齢者の医療・健診・介護に関する情報等を一括して把握・分析・活用できるようにする点である。これにより、市町村は高齢者全体の健康課題を面として整理・分析するとともに、個別の高齢者の課題を浮き上がらせて、個別に必要な医療関連サービスへつなぐ仕事を担うことになる。こうした取組が積極的な受診につながり、健康悪化を未然に食い止めるのであれば良い。しかし、国の資料では「通いの場」のような自助・互助の場につなげることが重視され、本来保障されるべき公的な医療・介護から遠ざけることにつながりかねない。
四つめは、社会保険診療報酬支払基金法の改正に代表される審査支払機関の本来役割の書き換え・変質である。改正法では支払基金のリストラと審査基準統一化が一体的に目指され、同時に支払基金の担うべき業務にデータ分析等の業務化が盛り込まれる。データ分析等の業務化は国保連合会についても行われる。1948年に創設された支払基金は、支払遅延が蔓延していた当時の実態を解決すべく、診療報酬の審査及び支払いを統一的かつ迅速に行うことを目的とした組織である。そのような歴史を持つ組織に国策である医療・介護・健診等のデータ収集・分析・活用促進を担わせることによって、国民皆保険の公正な運営を担保する組織から、国の改革への協力機関に変質しかねない。保険審査の仕組みは、国民皆保険制度による保険で良い医療の提供の基本ルールを支えており、保険医は患者一人一人の個別性を踏まえて医療を提供する。そうした国民皆保険制度を改変し、画一的な医療の在り方を医師に強いる改革は許せない。
以上のような危惧が現実のものとならないよう、引き続き、必要な要望を行う所存である。