次世代医療基盤法について
実施日=2019年3月13日~3月29日
対象者=代議員89人、回答数=35(回答率39%)
自院の情報提供反対7割
企業への販売に懸念
各医療機関における患者の医療情報を新薬開発やその他の新産業創出に利活用する仕組みとして「次世代医療基盤法」(通称、「医療ビッグデータ法」)が18年5月に施行された。その基本的骨格は以下の通り。
①患者の医療情報全てについて、各医療機関が契約した『匿名加工・認定事業者』に提供し、『認定事業者』がデータの匿名加工を施した上で、そのデータを第三者(研究機関・企業・事業者)に販売する。各医療機関から『認定事業者』までの間は生データの移動となり、この間の情報セキュリティの責任は、法的には各医療機関になる。
②第三者は主に医薬品の新規開発や新しい治療法の開発に関わる製薬会社や研究機関が想定される。しかし、法的にはこれに限定されることなく、これらの研究・開発の環境整備やそれに関わる新産業創出にも広く利用可能となっている。
③自院の患者情報を提供するか否かの医療機関ごとの判断・決定は任意。医療情報を提供しなくても不利益を被ることはない。
④患者情報を提供する場合は、その個々の患者に説明して拒否をしないことの確認が必要だが、必ずしも明確な同意書は必要なく、院内掲示やちらしを出しておき拒否の申し出がなければ承諾されたとみなして情報提供が可能となる規定(オプトアウト方式)である。情報を提供する患者個人には、その対価が支払われることはない。医療機関には情報提供に伴う実費が支払われる想定である。
⑤患者への説明や同意の方法は各医療機関に任されるが、患者が提供拒否の意思表明をした場合は、最低限そのことの「書面」を取り、カルテ等に残しておくことが求められる。書面の様式は任意である。
以上を解説した上で、代議員会が次世代医療基盤法についてどう考えるか、アンケートを実施した。
大多数が「知らない」
次世代医療基盤法の制度の概要について、「知らなかった」が94%で、「知っている」はいなかった(図1)。
次に、患者の医療情報全てについて、各医療機関が契約した匿名加工・認定事業者に提供し、認定事業者がデータの匿名加工を施した上で、そのデータを第三者(研究機関・企業・事業者)に販売することについて、「利活用の方法にかかわらず提供・販売には反対」が54%、「医薬品の新規開発や新しい治療法の開発に関わる製薬会社や研究機関への提供・販売は賛成するが、新産業創出を目的とした提供・販売には反対」が14%、「利活用の方法にかかわらず提供・販売には賛成」が11%であった(図2)。
自院の患者情報を匿名加工・認定事業者に提供するか否かは、医療機関ごとの任意の判断だが、医療情報の提供について、「提供したくない」が71%、「分からない」が20%、「提供したい」が9%であった(図3)。
医療情報を認定業者に提供する立場として、医療情報の提供に関する患者の承認方法について、「患者が明確な同意をした場合(オプトイン方式)に限るべきだ」が74%、「分からない」が17%、「オプトアウト方式でよい」が6%であった(図4)。
代議員の今の気持ちとして、患者の医療情報の匿名化と第三者提供を信頼できるかについては、「個人情報漏洩等、目的外使用を危惧しており、現状では全く信頼できない」が77%、「分からない」が17%、「国が示した提供方法、加工方法と利活用方法を信用するしかない」が6%であった(図5)。
「次世代医療基盤法」に対する自由意見では、「ビッグデータの利用はすでに始まっている。世界各国はビッグデータを解析して、創薬、治療法の創生、医療ビジネスの創生を行っている。日本はこの分野で頑張ればトップリーダーとなる資質は十分にある。政治はこの方向を選んだ。民主的手続きによって成立した法ならば悪法も法。これが正解か、正義かは自分の判断の外にある」という意見がある一方、「特定の総合病院のみでお願いしたい」「患者が理解できていない場合も含まれてしまう」「全く同意できない」「賛同する余地は全くない」などの意見が寄せられた。
プライバシー保護の観点を第一に
国の産業発展に資することとの引き換えやその裏側で、国民各個人のプライバシーや尊厳が損なわれることがあるとすれば、それは日本国憲法(第11条~第20条など)に抵触する重大な憲法違反になる。
個人の医療情報の取扱いは極めてセンシティブな、プライバシー権の問題である。制度設計に際しては慎重の上にも慎重に、憲法違反となる可能性がある部分は排除しなければならないと考える。
図1「次世代医療基盤法」制度の概要について
図2 データを第三者に販売することについて
図3 医療情報を提供することについて
図4 医療情報の提供に関する患者の承認方法について
図5 患者の医療情報の匿名化と第三者提供について