米国のミシガン州のフリントの飲料水鉛の政治化
ミシガン州は、Lower PeninsulaとUpper Peninsula に分かれ、前者は、自動車産業で有名なデトロイトや、化学産業で有名なダウケミカル、食品産業のケロッグなどが存在する。また周辺にはシカゴ、シンシナティなど製薬業や製造業で有名な産業都市が配置され、中西部産業ベルトを形成している。さらに、近年では製造業の斜陽化によりデトロイト周辺地域は、ラストベルトに含まれている(図1)。
2010年に事はさかのぼる。ドナルド・トランプの親友であるリック・スナイダーが、ミシガン州の州知事に選ばれた。浄水設備の老朽化により設備更新が必要となったが、財政上の困難から市民の意見がまとまらず、緊急事態管理者法を成立させて市政府の権限を奪ったスナイダーはトップダウンで2014年4月、フリント市の水源をヒューロン湖からフリント川に変更した。フリント川への変更により、鉛濃度が高い水が市民に供給された。飲料水を購入できない貧困層では、市水を飲水することで鉛による健康障害が広がった。市民の抗議に対して、当局は汚染の事実の隠蔽と改ざんを行った。2016年5月には、オバマ大統領もフリントを訪問し、支援に乗り出すほど緊急事態に発展した。しかしその後、市の財政を潤すため、国務省はフリント市街を陸軍の演習場に利用したため、住民は、オバマ大統領に失望した。
ミシガン州は、大企業と農業で成り立っており保守共和党の牙城であったが、フリント地域および近隣のデトロイトの選挙区では、2018年の下院議員選挙で、ダン・キルディーやラシダ・トレイブなど民主党候補が勝利した。特にラシダ・トレイブは、今回の選挙で初めて当選したイスラム教徒の女性代議士で、反トランプの期待の星でもある。
何故ここまで先鋭化したか? そもそもフリントとはどんな町であろうか?もともとGMは、フリントで創業された。GMのフリント工場では、ビュイック(Buick)ブランドが作られてきた。1980年代に町からGMが撤退することになり、町おこしとしてハックルベリーファームなど大型テーマパークが作られたが破綻。市はますます財政困難に陥った。現在までこの事情は変わらず、基幹産業はない。そのような中で、鉛汚染による
Water Crisisが起こり、ラシダ・トレイブなど従来と異なるリベラル派の台頭となった。
ここで米国のリベラル派の近年の動向に注目する。そもそも、米国のリベラルとは、ジョン・ロールズ(1921―2002)の思想に代表されるように、新自由主義への対抗思想として、正義・公平・公正を掲げる。しかし、近年、その限界が明らかにあり、バーニー・サンダースのような民主社会主義者を熱烈に支持するように変化した。フリントのWater Crisisと演習場利用で伝統的リベラルのオバマ大統領の欺瞞と限界を鋭く見破った。米国の政治風土は大きく動いている。