医師が選んだ医事紛争事例 94  PDF

左前額に麻痺、事故の原因は特定できなかったけれども…

(60歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
 当該患者が他のA医療機関で両頬のたるみ取り手術を受けた。その後、たるみ取り修正手術を当該医療機関で施行した。患者が再度手術を希望したので診察をしたところ、前2回の手術で創が瘢痕肥厚拘縮をきたしており、まず瘢痕形成術を施行しないとたれた部位のつり上げができないことを説明して、了承を得たうえで三度目の手術を施行した。なお、患者が担当医師の古くからの知人であったので、同意書は取っていなかった。さらに、神経麻痺のリスクについては事前説明もしていなかった。
 手術施行の際にC社製の双極高周波止血器が放電した可能性があり、その結果左前額に麻痺をきたして左眉が上がらなくなった。そこで神経賦活剤の内服・注射、低周波治療を施行したが効果が認められず、最終的に左眉上挙の眼瞼下垂手術を施行。しかし左眉は動かず、他のB医療機関で治療継続となった。
 患者側は弁護士を通して賠償請求を求めてきた。医療機関側は、瘢痕切除術時に双極高周波止血器が放電して、その結果として前額枝を麻痺させたのは事実であると判断。全治も不能で、左眼の上方の視野も狭まったことが考えられるとして、過誤を認めた。
 紛争発生から解決まで約7カ月間要した。
〈問題点〉
 当該医療機関における手術と左前額麻痺の因果関係はある。当該医療機関は、麻痺の原因を双極高周波止血器が放電したことによるものと断定していたが、機器のトラブルであれば責任を負うのはメーカーである。むしろ手技ミスの可能性が高いと判断した。なお、放電事故の有無をC社に確認したところ、放電については物理的にあり得ないとの返答を得、さらに、双極高周波止血器に故障はなかったことを確認した。当該医師には、患者が古くからの知人であっても同意書は取るべきことと、カルテ記載が不自然に見えるので誤解のない記載方法を日常から心得ることが肝要と指摘した。
〈結果〉
 医療機関側は過誤を認めて、弁護士を介して賠償金を支払い示談した。

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