新指標用いた開業規制提案の撤回を見解まとめ厚労省に要請へ  PDF

 医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会において診療所医師の偏在をはかる物差しとして〈外来医師偏在指標〉が提起され、指標を用いて設定した〈外来医師多数区域〉における新たな開業のハードルが示された。報道によると、厚生労働省は「開業制限ではない」と説明している。しかし、今回の提案は我々の予測よりも遥かに直接的な開業規制策であると考える。日本の医療制度は明治維新以前より、公的セクターではなく、民間の開業医を基盤として形成され、発展してきた。自由開業は今日の医師の在り方を規定する基本的構成要素であり、時の政策によって易々と制限されることは受け入れ難い。協会は外来医師偏在指標を用いた新たな開業規制の撤回を求め、以下の通り見解をまとめた。2月8日実施予定の厚労省との懇談において、下記の見解に基づき要請する。

地方への医療保障責任は国が果たすべき

 日本の医療保険制度は、人口減少が著しく、経済が疲弊した地域での医業が成り立たない仕組みだ。これは日本の医療制度自体が抱える問題であり、医療者の責に帰せられるものでない。
 そのような仕組みの下で、民間医療機関を提供体制の基盤としている限り、医業が成立しない地域での医療保障は、国の責任において果たす他に方法はない。
 しかし、1997年に構造改革の先駆けであった橋本行革以降、国保直営診療所を含め、自治体病院をはじめとする公立病院への一般会計繰入等が問題視され、公立病院改革ガイドラインに象徴されるように、民間と同様の独立採算性・効率性・企業性が求められた。結果、自治体病院は廃止・統合・再編の荒波に晒されることとなった。
 必要なのは抑制的な公立医療機関政策を転換し、開業規制ではなく、公的セクターによる偏在是正策を進める視点であると考える。
 具体的には、採算がとれない地域では、公的セクターによる医療機関(診療所)の設立・経営を原則とし、公的責任において医師確保を行うこと。
 同時に、不採算地域での開業者に対し、公的医療保険財政に拠らない形で財源投入し、採算ラインに満たない部分を補填する仕組みの創設を提案したい。

地域再生へのビジョンを

 医療が成り立たない地域では、いずれ人々は暮らし続けることができなくなる。
 国のなすべきことは、医療の確保だけでなく、医業が成り立たないほど衰退した地域の再生策である。昨今の国の自治体政策は自治体消滅論を煽り、自力で存続できない自治体の死を待っているかのように見受けられる。
 しかし、そこに住民がいる限り、自治体は存続されるべきであり、必要な公共サービスが公の責任において保障されなければならない。それこそが国が本来担うべき仕事であると考える。

自由開業制の意義踏まえた政策立案を

 日本における自由開業制の歴史は長い。江戸幕府の御典医・町医の時代、明治維新から戦後に至るまで、自由開業制のもとでの開業医医療を基礎として、日本の医療提供体制は構築されてきた。
 歴史的に見て日本の医療・医術は、自由開業制と密接に結ばれて育まれている。その見直しは日本の医療政策の根本転換であり、医師・医療の在り方を大きく変えることになる。
 開業規制は、日本国憲法に抵触する恐れがあるという法理上の問題ばかりでなく、開業医師のオートノミーにかかわる問題であり、「この地で医療をやりたい」という医師の情熱やモチベーションさえ否定し、結果として必要な医師の確保がなされなくなる危険性がある。

「あるべき医師数」掘り起こしを

 偏在指標を用いて多数・少数を区分して得られるのは、あくまで他の地域と比較しての医師数の多寡である。それは「あるべき医師数」ではなく、医師多数区域とされた地域であっても、実際には医師が不足だという事態もあり得る。つまり偏在指標だけでは、地域のニーズに対し、医師が本当に不足しているか否かを把握することも、表すこともできない。
 医師需給分科会は2018年に医師需給推計を行い、将来の医師余剰を予測した。これによって医師養成数抑制が既定方針となり、医師数増なき偏在是正が謳われている。だが、同推計はレセプトデータに基づき、現状追認から出発した将来推計であり、本当の地域のニーズを把握した上でのものとは認められない。
 そもそも国際的に見れば日本の医師数が少ないことは厳然とした事実である。
 医師数を増やさないことを先に決めた上での政策ではなく、必要ならば養成数を増やす立場で、医師確保策の検討をしていただきたい。

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