私のすすめる ナガラスケッチ思い出紀行 宇田 憲司(宇治久世)  PDF

人間70年のスケッチ映画人生

 本書は、前著『スケッチブックの向こうに』(つむぎ出版2014)に引き続くA5判の水彩画集である。京都のシネマ名所を中心に、関連する静物画5点、風景画105点に気の利いた短文の随想を交え、映画の発祥地京都を彷彿とさせる景観を選び、懐かしげに紹介している。
 共同執筆者として映画監督の中島貞夫氏を招く。著者の描く「映画のある風景」に触発されては、リュミエール兄弟による映写機の発明から、その2年後に稲畑勝太郎に持ち帰られ、牧野省三がここ京の地で映画製作を開始して、自身も映画を志し製作実施に至ったなど23項目にわたって心熱くも語られる。そのシネマの思い出は、歴史の重みを感じさせ、短くも圧巻の証言である。
 また、著者の映画への思いがどのように生じたかを「チャンバラ映画私史」30項目にまとめる。今は亡き祖母に連れられ映画鑑賞に親しんだ幼児期・少年期からの映画への傾倒とその時々の映画の栄枯盛衰のあり様を語っては、昔はそんなこともあったかとの実感を新たにしてくれる。
 巻末の解説には、1948年生まれで同年代と称する一歳年上の帝京大学文学部教授の筒井清忠氏が「同世代としての共感」を述べる。同世代の一人としてならこの私も、幼き日にラジオから流れ来た、今もはっきり想い浮かぶ「笛吹童子」や「赤胴鈴之助」のテーマソングがふと口につく。60余年の歳月が如何に迅速に過ぎ、無常に流れ去るのかと思い至される。
 中島監督の作品は、大阪の地下鉄中央線は九条駅下車3分の地にある、私も1口株主をしている場末の映画館「シネ・ヌーヴォ」で数本見た。四国のサンカ者を主題に描いた「瀬降り物語」では、万引き青年が警察官に追われ屋根伝いに逃げ惑う時に映し出された夕焼け空の映像が、透き通る赤ワインが芳醇に匂い輝くとでも言えるような美しい赤色に赤々と凝縮しており、今も印象深く目に浮かぶ。
 我が家での本書への感想は、次女曰く「音楽と一緒で、さっと聞く。この画集も、さっと見るのがよい」とのこと。また、妻曰く「映画の絵とこだわらなくとも、京都スケッチ散策案内として眺めれば楽しいじゃない!」と。もちろん著者本人の努力と苦労の結晶ではあろうが「どちらにしろ、かるーい読みもので、電車の中でも読めるヤン。人間70年もそんなものですか?」と達観した振りをしながら、著者の末長いスケッチ人生を祈る。ご購入ご一読をお勧めする。

大森俊次著 『中島貞夫監督と歩く京都シネマスケッチ紀行』
天保山ギャラリー監修・㈱かもがわ出版 2018.9.15
初版第1刷発行 2000円+税

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