不断の努力
97条:この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
12条:この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。
基本的人権、あるいは自由と権利は、過去幾多の試練にさらされてきたが、その中でも広範、深刻な侵害の多くが国家によって行われてきたことは、歴史の教えるところである(その最たるものが戦争であろう)。それを防ぐため、国家の統治は、憲法に基づき、憲法の制約の下に置かれ、それを逸脱した行為は排除、禁止される。すなわち憲法は国家権力の行使を制限する国の最高規範であり、国家権力を行使するもの、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員はこの憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」(99条)が、それをないがしろにすることは基本的人権、あるいは自由と権利侵害の危険に国民を晒しかねない(なおここに天皇が含まれるのは、過去において国家権力による人権侵害が、天皇の名において行われた歴史への反省に基づくが、自民党草案からは削除されている)。
この近代立憲主義に基づく日本国憲法が国家に対する権力制限規範である一方、国民と憲法の関係で、国民に求められているのが「不断の努力」がある12条であろう。憲法が国民に保障する自由および権利は、過去幾多の試錬に晒されただけでなく、今もそして今後も、試練に晒されかねず、その恐れがあるときには、それにいち早く気づき、それを排除する努力が絶えず求められる。そしてそれを怠れば、憲法は形骸化し、我々の基本的人権、あるいは自由と権利は失われかねないし、平和も危うくなりかねない。
現政権下で改憲が声高にいわれるが、この視点からみての問題はないのであろうか。例えば、政府の先頭に立って憲法順守の義務を負うべき首相が、公務員たる自衛隊に向けての改憲の演説。自民党草案での、99条への「すべての国民は、この憲法を尊重しなければならない」の追加。これは憲法の国家権力制限規範を国民を縛るものへと転化させるものと言わざるを得ない。我々は改憲に関わる文言に隠された意図を見抜き、人権、自由そして平和を守っていかなければならない。
(政策部会・飯田 哲夫)